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may.9.2016 ・・・大好き
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「俺達考えている事同じだと思う、たぶん同じ。」
理さんはダイニングテーブルに両肘をついて頬杖をしている。子供がするみたいな仕草を見て、もしかしたら小さい頃からここに座って、こんな風に料理をするお母さんを見ていたのかもしれない。
僕たちの視線の先にはシンクとガス台のスペースに並んで立っている3人の姿。
飯塚さんと紗江さん、そしてミネさん。3人ともとても楽しそうにしています。紗江さんは素敵さんなので、飯塚さんと並ぼうが、横にミネさんが立っていようが遜色なし。えらくパチンとはまったピースみたいに絵になる3人です。
最初は僕とミネさんで作業していたのですが、そこに紗江さんがやってきて、飯塚さんが来るとミネさんが「ハルは休んでていいよ、お疲れさん。」と言いました。なんだかお払い箱な気分でダイニングテーブルに座って3人を眺めていたら、カットを終えた理さんが仲間になりました。そして考えていることが同じっていう言葉に繋がるわけです。
「同じでしょうかね。」
「たぶんな。なんか苛々とも違うけど、落ち着かない感じがする。衛が花を買うって言いだしたあたりからずっと。」
買い出しから帰ってきた飯塚さんの手には花束がありました。紫のトルコキキョウと白いカスミソウのシンプルな花束。理さんのお母さんにかな?でも母の日はカーネーションじゃないのかな?
よくよく聞くと紗江さんに贈る花束でした。母の日は昨日だけど、自分なりの気持ちを込めて選んだ花を紗江さんにプレゼントしたい。気持ちはわかります、綾子ちゃんは「皆の子供」そう飯塚さんに言ってくれたと聞いたときは僕もジーンとしてしまいました。紗江さんに何かを贈りたい、それはとても自然なことだと思えます。
こっそり花言葉を調べたのは内緒ですが・・・。
トルコキキョウ⇒『あなたを思う』『思いやり』『よい語らい』『希望』
カスミソウ⇒『親切』『幸福』『無邪気』『清い心』
調べたうえで花を選んだとしたら、想いの長けがテンコ盛りです。男女間の恋愛感情ではもちろんありませんが、理さんはこれを買っている飯塚さんの横で何を思っていたのかな。
「理さんも花束が欲しいとか?」
「いや、そういうことじゃない。俺は花に興味もないし衛もそうだった。贈りあったこともないし、花が話題になったこともない。俺は母さんに花じゃなくて文明堂のカステラにした、好物だから。花は選択肢になかったし。
でもさ衛は・・姉ちゃんに花を贈りたいって思ったってことだ。感謝の気持ちを込めて花を選んだ。俺に何かを贈るとしても花束は絶対選択しないと思う。
嫉妬とは違う・・・なんていうのかな、衛はそういう立場にある男だったわけで、俺も男でっていうのは予想外のことで・・・。
えええと言いたいことがまとまらない。
それで姉ちゃんとはいえ、女性と台所に立っている衛を見ていると、これが本来あるべき衛の未来だったかもしれないってことを考えてしまう。
今更なのはわかっているよ。衛の手を離すなんてこと俺ができるわけもないし、衛だって望んでいない。でもね、こういうどうしようもないことを考えてしまう日があるんだ。そして考えたって仕方がない、今二人でいることにお互いが満足していることが大事だって納得する。
・・・するんだけどね、こう目の当たりにすると、心のどこかが弱気になる。」
「理さん・・・。」
「正明の場合は俺とはまた違うだろうけど・・・ミネが姉ちゃんと並んで台所に立つ姿は、ちょっとクルよな。
俺が正明だったら即ポンコツになっている。はああ・・・。」
まさしくその通りです。目の前に見える景色はミネさんの未来のようです。当然僕はそこには居なくて、ただ後ろから眺めているだけ。それしかできないという現実がひしひし心に響きます。
理さんと同じく僕も割り切ってクヨクヨしないって決めた。
ミネさんの笑顔を貰えるように笑顔でいようって・・・そう決めた。
僕の心の決心と現実にはかなりの隔たりがあるっていう事実。あまりにも重い真実。
「そうですね・・・。理さんと飯塚さん、そしてミネさんにはある未来図かもしれません。でも、僕には絶対にない未来です。僕は誰かの横に立つことになっても、それは同じ男です。だからなのかちっとも未来っていうのが見えてきません。飯塚さんとミネさんが並んでいる姿を見ても、それに自分の未来は重なってこない。仲良しの友達が料理を作っているっていう現実しか見えない・・・そうです「今」しか僕にはない。
「今」をどれだけ重ねたら未来がやってくるのでしょうか。僕には「今」がすぐ過去に変わってしまって、過去ばかりがどんどん積み重なる。最後の時がくるまで未来は僕の所に来てくれない。そんなことを考えてしまうことがあります。
ゲイである自分は一人なんだって、ずっと一人で生きていくんだっていう恐怖と絶望に潰れそうになったり。
でも・・・ミネさんが笑ってくれたら、僕の頭をガシガシしてくれたら安心できる。
でも・・・そのミネさんが僕を一番悲しい気持ちにもできる。皮肉なものです。」
「同性で恋愛するって、なんでダメってことになるのかな。」
「さあ・・・。自然の倫理に反しているからじゃないですか?」
理さんは僕のほっぺたをギュウとした。
「正明の存在が倫理に反しているわけないだろうが。それを言ったら世界中のゲイの人が皆反社会的分子だと主張するのと一緒だぞ。そういうことは言うな正明。」
「・・・はい。」
「ダメかダメじゃないか。それは自分が決めることだって、俺は衛と一緒にいることを選んだ時に気が付いた。ダメだって言うのは他人であって俺達ではない。時に何でダメな関係になるのかなって考えて凹むこともあるけど、でもやっぱり好きでもない相手といたくない。それが女でも男でもそうなんだ。男でも女でも衛っていう人間を俺は選んだ。だからそれでいい・・・って偉そうに言ってるけど、ポンコツ気味なのは俺のほうだよ。
花束・・・存在したかもしれない衛の未来、それを潰しているような気分。
衛に言ったら、何バカなこと言ってる?って笑うだろな。
でもさ、人間だから、何気ないことが心に刺さる事だってある。」
わかりますよ、僕だって毎日その繰り返しです。近くにいればいるだけ「遠い」と感じてしまうことがコロンと転がっている日常。それが引き金になって普段蓋をしていることが溢れることもある。
だからその時は「ミネさん?」と呼びかける。僕が変な顔をしていれば、何もいわずに頭を撫でてくれるから少しだけ安心して、それを手掛かりにして自分の心を取り戻す。
毎日それを繰り返して・・・
繰り返す数だけ、また好きになってしまう。
「でも・・・僕はミネさんを想うことをやめたくないのです。だから堕ちたり沈んだり浮き上がったりしながら、ユラユラしながら頑張ります。
もう無理だ、止めよう・・・そんな風に思う日がきたら無理だって自分に従います。
でもそれまでは、やっぱり傍にいて笑顔を見ていたい。悲しかったり苦しかったりしても、やっぱり自分の心には正直でいたいので。」
「そっか・・・そうだな。自分が願うことを自分が信じてやらないとな。」
「ええ、そうですね。でもこれって、普通に異性を好きになる人達も考えることじゃないですか?
特権階級の僕らはちょっと難易度が高いってだけで。」
理さんは僕の肩をキュっと掴むと冷蔵庫の前に行き扉を開けた。中からビールを2本とりだしてテーブルに戻ってくる。
「飲んじゃおう。俺達は特権階級だから。」
「そうですね。」
プシュっとあけて乾杯。
「なんだ!サトル、ハル。二人で抜け駆けか?」
「そういうこと、俺運転できないから、衛かミネよろしく~~~。」
「おいおいおい、お~~い。」
ふくれっ面のミネさんの顔をみて可愛いなと思う。
そうですね、これでいい。
僕はミネさんを必要としている自分に正直でいよう。未来につながるのか、僕に未来があるのかわからないけれど、ちゃんと「今」はある。
そうですよね、ミネさん。
僕はあなたが・・・大好きです。
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