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november.14.2016 ふたりでお祝い-3
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「すごい!すごい!」
完全に乾いていない髪をバスタオルでこすりながらリビングに来た理はテーブルの上を見て大きな声を上げた。
笑みを浮かべながら微睡んでいる理をベッドに残すのは残念だったが、いつまでもオーブンを放置しておくわけにはいかない。手早くシャワーを浴びて料理に取り掛かった。
子羊の肉はガーリックオイルで表面を焼いた後オーブンに入れた、小ぶりの丸ごと男爵イモにたっぷりのローズマリーと岩塩。とろりとしたソースも合うが、シンプルにいきたかった。このジャガイモには今日用意したとっておきのチーズがよく合うだろう。
もう一品は鴨。胸肉のオレンジソースにした。バルサミコソースと悩んだ結果、色味が綺麗だし、理の知らない味だろうからオレンジソースに。どうにもあのちらし寿司と塩釜に対抗意識があるらしい。子供っぽいかもしれないが、何であれ、理の一番でありたい。油断していると村崎に先を越されてしまったことが何度もある。
新鮮な一皿を俺の手によって理の初体験に。
これが俺のスローガンだ、誰にも文句はいわせない。
鴨は丁寧に焼いた後アルミホイルで包んで予熱で火をいれる。ソースはオレンジとスープストック(なんでとったスープか忘れた。冷凍庫にあったもの)エシャロットもいれた。マデラ酒を風味づけに使ったので甘みとコクがでたはずだ。
フルーツと肉の組み合わせは正直食わず嫌い歴が長かった。意外と合う、それを教えてくれたのは村崎のオヤジさんで、オレンジやクランベリー、ベリーに桃、工夫次第によって美味しくなることを食べることで教えてくれた。当然不味くなることも。
フルーツは野菜とは違うので加熱が過ぎれば色が悪くなる。合わせるアルコールとの相性も大事。
詳しいレシピは教えてくれなかったが、高校生の頃から顔を出せば小さい皿に何か出してくれたものだ。元気にしているとは聞いているが、時々会いたくなる。
オーブンに入ったチーズもいい頃合いだ。
それを持ってテーブルに並べている所に理が登場したというわけ。
どことなく気怠さが消えていない姿が特別な今日の演出のように思えた。去年は温泉で、それもなかなかいい思い出になったけれど、こういう日もいい。
「食べようか。」
「うん!」
皆から貰ったワインをおそるおそる開けてグラスに注いで乾杯。
美味しい?美味しいんだろうな。28歳?その値有る?俺達と同じでまだ若造じゃないか?
理は結局「よくわからない。」と言い出し、普段飲んでいるワインを別のグラスに注いだ。
「比較対象がなくっちゃね。それとガブガブ飲めるワインがないと安心して食べられないよ。こんなに美味しい料理なのにさ!」
美味しい旨いを連発する理を見ながらワインを口に含む。
11月は何回も「おめでとう」を言い、何回も言われる月になってしまった。二人で初めて誕生日をした日、お互いに奢り合おうと無理やりなことを言ったあの日。あの時はこんな日がくるとは思っていなかった。こうやって二人で生まれたことを喜び祝うなんて時間がくるとは・・・それを一緒に。
「今年のプレゼントはワインだ。訳アリワインセットがゴロゴロくるから。」
「さっきも届いていたじゃないか。」
「いくらあってもいいんだよ。すぐなくなるし。」
確かに、その通り。
「ワインセラー買うか?小さい冷蔵庫くらいの。」
「いらないよ。収集家じゃないし、俺達は飲んじゃう家だ。」
俺はたまらず噴出した。なんだ、その「家」は。
「いいんだよ、飲みの大家でね。衛、そのチーズはなに?焼いたの?すっげ~おいしそう。」
「ちょっと奮発した。」
「なに?奮発だと?」
「8月から3月の限定生産で、月一しかお届けにならないんだよ。常温で置くとトロ~としてクリーミーだが味はまろやかかつしっかり。表面にガーリックとパン粉を乗せて焼いてみた。」
「それ、不味いはずないだろ?で?奮発っていくらしたの?」
「¥4000まではしない」
「ええええ!これだけで?」
「ケーキだってこのくらいするだろう?ケーキ替わりだよ。」
またもやおそるおそるスプーンですくってパクリ。予想通りその顔はキラキラと輝いた。
「奮発の値はある!これおいしい!」
「子羊の付け合わせのジャガイモにかけても美味しいと思う。」
「キャーキャー衛さん、素敵すぎ!惚れ直した!キャーキャー。」
「理が喜ぶのが一番。それが俺にとっての最高のプレゼントだ。」
スプーンを持ったまま理が固まり、そのすぐ後に顔が真っ赤になった。
「なんだよ!!これから恥ずかしい事言います!宣言してから言えよ。もお~恥ずかしいな。」
「だって本当のことだし。」
「キャーキャーうきゃきゃだよ。どうすんだよ、俺テレテレじゃないか!」
ごくごく飲んでいいワインをグラスに次いで照れ隠しに飲む理はやっぱり俺にとっての宝物だと思った。
どんなプレゼントを横に並べようとかなうわけがない。
宝物か・・・。
それを言うのはまた次の機会にしよう。
俺達の誕生日はこの先何回もあるのだから。
END
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