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羅音と僕
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巴里に着いて十日ほど経った夜のことだった。
僕と羅音(らおん)は、亡き羅音のママンが所有していたアパルトマンに、引きこもっていた。
巴里に着いてすぐ、羅音は、亡きママンの寝室に陣取った。僕の寝室は、羅音の部屋の隣だったけれど、僕は、羅音のいる部屋に入り浸っていた。
その夜も、ブルーのストライプのお気に入りのフレンチリネンのパジャマを着た僕は、ルイ十五世様式の曲線を描く、深緑のビロード張りのソファにはらばいになって、金色の房のついた黄色やピンクのクッションに埋もれながら、裸足をパタパタさせて、観光ガイドブックを眺めていた。
五分ほど前にバスルームから戻ってきて、鼻歌まじりに巻き毛の金髪を白いバスタオルで拭いていた羅音が、突然、僕に言った。
「杏(あんず)、これ入れてくれる?」
僕がガイドブックから顔を上げて羅音を見ると、羅音は、鹿のようにほっそりした脚をもつ黒いビューローの、金色の取っ手を引いて、引き出しを開けていた。羅音は、引き出しから十センチほどの長さの、黒い棒のような物をとりだした。羅音は、裸足で、紫色のラグを踏みながら、忍び足のロシアンブルーのように近付いてきて、無理やり、それを僕の手に握らせた。
羅音のヘーゼルの瞳が、ひた、と僕を捕らえた。
「え?」
クッションの上で、開いていたガイドブックのページがぱたりと閉じた。僕は起き上がって、手の内に握らされた、奇妙な形の物をまじまじと見つめた。僕は、それが何なのか、羅音が言ったことが何を意味するのか、全くわからずに、ぽかんとした。すると羅音は後ろ向きになって、オフホワイトのバスローブの裾を捲くると
「ここに」
といって、白いお尻を突き出した。
「えっ」
幼なじみの羅音の裸など慣れっこで、見ても何とも思わないはずなのに、僕はその姿を見て、うろたえた。呆然とする僕に、しびれをきらせたかのように
「はやく」
と言って羅音はゆるゆると腰を動かし始めた。
「あ、あの」
僕は、恥ずかしさに顔が火照った。羅音は僕を虜にするような笑顔で振り向いて、見せつけるように言った。
「ねえ」
羅音は、再びお尻を突き出しながら、自分で割れめを広げてみせた。
「ほら、ここに」
「ら、らおん」
僕は、どう反応したらいいのかわからなかった。
「ひくひくしてるんだ、もう待ちきれなくて、さあ、早く」
羅音は、うっとりした声で、催促した。
「ふ、ふざけるのはやめてよ」
僕がやっとのことで言うと
「ふざけてなんかいないよ」
と振り向いた羅音の目つきは蕩けていて、最早いつもの羅音ではなかった。
羅音の両親があいついで亡くなってから、羅音の様子が変なことは知っていた。僕も両親を幼い頃に亡くしていたから、そのショックはわかったので、僕は、羅音を、そっとしておいた。それに、僕は十歳で祖母にも死なれてから羅音の家に引き取られたので、羅音の両親は僕の両親も同然で、彼らが亡くなったことは、僕にとってもショックだった。僕にはただ、羅音のそばにいることだけしかできなかった。
羅音が僕にする挨拶のキスが、日に日に常軌を逸してきているのも、僕は内心、すごく気になっていたけれど、言い出せなかった。あまり気にしていないふりをして、羅音のことを嫌っているのではないけれど、さりとて、いきすぎたキスを、そのまま続ける気もないことを、さりげなくわからせるように、そっと無言で肩を押し、離れるようにしていた。
だけど、こんなことって……。
「そんなの、だめだよ、羅音。キスくらいならまだしも、そんなの」
僕は、これが、とてもいけないことだ、ということだけは、わかった。
「そうかな? でも、気持ちいいんだよ? 知ってる?」
羅音の様子は、まるで、すっかり酔っ払っている人のようだった。
「ねえ、誰か来たらどうするの?」
僕は、なんとか止めさせようとした。なのに、羅音は、全然聞いていないかのように、
「杏にも、やり方を教えてあげるよ」
と、僕の肩に手を置いてきた。
「羅音、聞いているの?」
「聞こえない。だって、僕、もう夢中だから」
うっとりしている羅音の声と身体が、僕にまとわりついた。
「そんなにくっつかないでよ。言い訳がきかないじゃないか」
「見られて困る人なんていないよ」
言いながら羅音が手で、僕の大事な所に触れた。僕は驚いて、握らされていた奇妙な形の玩具を放り出し、ソファに倒れこんだ。
「何て事する……ん? 何だこれ?」
はずみでずれたクッションの下にあった雑誌を、どけようと、ひっぱりだして何気なく目にした。見てしまったそれを、僕はあわてて床に払い落とした。
「な、なにこれ」
床に投げ落とされてもなお開いている雑誌の頁。剥いたバナナをお尻に入れている男の子の写真。そして、その少年のペニスの先端をくわえている若い男。
「……羅音、これ」
「ああん、早くぅ」
羅音は、一人で変な声を出している。僕は、ともかくも目の前から扇情的な場面を消し去ろうと、ソファから降りて手を伸ばし前のページをめくった。しかし、そこには、四つん這いになって、喘いでいる、男の子のアップの写真が。さらに前の頁では、尻に剥き身のバナナの先だけささっていて、もう一人の手が黄色い皮をむいている最中だ。穴を中心に、花のように、皮が四方に垂れている。白い尻と、鮮やかな黄色の対比。
「だめ、だよ……」
僕の鼓動が強くなるごとに、僕の否定は弱くなった。
「だって、もう、我慢できないんだもん」
羅音は、うるんだ目で訴えてきた。羅音の突き出したお尻の穴が、ひくついて、すぼんだりねじれて隠れたりするのを僕は凝視してしまった。あそこに、ねじこむ……。さっきの男の子の写真が脳裏にちらついた。僕は、唾を飲み込んだ。
「でも、そんなことできない!」
僕は耳を塞いで叫んだ。
「いやだ、そんなの、羅音、やめてこんなこと」
僕は混乱して羅音につかみかかった。
「ちょっと、落ち着いて、杏、杏ったら」
羅音は
「何でもないよ、こんなの遊びなんだから」
と言って、僕をなだめようと、抱きかかえるように腕をまわしてきたけれど、ほっそりと小柄で華奢な彼には、暴れる僕を押さえきれなかった。それでも、いつもの優しい羅音がそばにいてくれると思うと、僕も少し落ち着いてきた。落ち着いてくると泣きたい気持ちになってきた。
「いやだよ、羅音、いつからこんなこと、何でこんなことしなきゃいけないの?」
僕は涙がでそうになりながら尋ねた。
「泣くことないじゃない。そんなに、こういうことするの嫌? 僕のこと嫌い?」
羅音が僕の顔をのぞきこんだ。
「羅音のことは好きだよ。でも、こんなことしたくない」
僕は告白した。羅音は溜息をついた。
「もう、杏ったら子どもだなあ」
「子どもなんかじゃないよ」
僕と羅音とは、数ヶ月しか年が違わないのに!
「そうだよね、可愛い」
羅音は、僕の首に両手をかけて、つくづくと僕を眺めて笑った。
「何?」
「僕は、杏のこと、何でも知ってるよ?」
「何でもって……」
やましいことがあるわけじゃないけど。でも、僕ももう十五歳で、今年十六になるのだから、人に言いづらい秘密のことだってある。羅音と僕は、お互いに、いつまでも子どものふりをして、甘えてじゃれあってきたけれど、本当は、僕は羅音に、いろいろ隠していることもあった。
「そんなに騒いでみせたってだめだよ。ごまかせないよ」
羅音が脅迫するように言ったので、僕はまた泣きそうになった。
「どうしたの? 杏」
「だって、恥ずかしいよ」
僕は、顔を覆った。僕がさっきから興奮してどきどきしてしまっていることを、いや、どきどきしているなんてどころじゃないってことを、見破られて、もう逃げ場がないからだった。
「わかった。杏には何もしないから。安心して」
僕はそっと手を顔から離した。
「だけど、さっき言ったこと、してくれる?」
僕が、唇を噛んで黙っていると、羅音は言い放った。
「いいよ、杏がしてくれないなら。椰子(やし)にしてもらうから」
「ええっ」
椰子は使用人の、気取った若い男だ。
「何であんな奴に」
僕は息をはずませた。
「だって、僕もう、せんからずっと……はぁ」
吐息をつくと、羅音は、恥らうような動作でしなをつくり、僕の目を見つめた。
「もう、羅音ったら、しっかりしてよ」
羅音の身体はぐだぐだで、何を言っても無駄という感じだった。
そういえば、最近、羅音の部屋からいつも、夜中に変な物音や声がしていた。
「まさか本当に椰子と……」
「あ、ああっ」
見ると、羅音は、いつのまにか自分の指をお尻に差し込んでいた。
「そんなこと、やめてよ」
僕は、後ろから抱き付いてやめさせようとした。羅音は、指を入れたまま、蕩けた目で、僕を見た。
「杏、君も……しようよ」
「何言っているの」
僕は、拒否しながらも、羅音の熱っぽい目つきに、ぞくっとした。
「ん、んん」
中腰の姿勢で、指を使いながら、羅音は一人で高まっていた。
「はぁ、いいよ、すごく」
羅音は僕の顔を見上げながら、誘うかのようにあえいでみせた。
「ねえ、しようよ」
羅音は床に膝をついて、さらに激しく、指を抜き差ししはじめた。
「ああっ、すっごくいい」
僕がさっき捨てた雑誌が床に転がっていた。羅音は這いずってそれに近づき、口でくわえてページをめくった。そして、男の子の尻のアップのところをペロペロ舐めさえしだした。
「やめてよ」
僕は、見ていられなくて羅音を雑誌から引き離そうとした。
「どうして? そんなに僕、変?」
紅い頬と、うるんだ目をして、色っぽく羅音が振り返った。これは、いつもの、ずっと前から知っている僕の羅音ではない。僕は混乱して、どうしていいかわからなくなった。
羅音は、ソファに戻って座った僕の膝の間に、頭を押し付けてきた。
「何するの……あっ」
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