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朝
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朝早くに教室に来てみれば、思っていた通り君が遠くで本を読んでいる姿があって、俺は口が緩んだ。急いで牧野のもとへと歩む。
「おはよう、牧野。」
牧野はチラリと俺を見たあと、本へと視線を戻した。挨拶をしてくれないのも日常茶飯事で、慣れた。俺は構わず牧野に話しかける。
「それさ、昨日読んでた夏目漱石の本でしょ? どんな内容なの?」
「……」
無言を貫き通すつもりか。
「俺にもさ、おすすめの本とかあったら、貸してくんない?」
ぐいっと君の読んでいる本へと顔を近づけた。そうすれば、嫌でも俺の顔が君の視界に入ることも知っている。君は面倒くさそうな目をしたあと、読んでいた本に栞を挟んで、机の上に置いた。その本を見れば、タイトルには『こころ』と書いてあった。
「あのさ。」
牧野が漸く口を開いた。俺は君を見つめる。
「何?」
「どうして、俺に付き纏う?」
「付き纏ってる、かな?」
「ああ。」
「んー付き纏ってるつもりはないんだけど、牧野と仲良くなりたいって思ってたから自然と話してるって感じかな。」
呆れた目で見つめられる。
「周りがなんて言ってるのか知ってんのか?」
「周り?」
「ああ。」
きっと、この前の明が言っていたことと同じような事だろう。そんなこと言われてもな、君と仲良くなりたいのは事実だし。
「周りなんて気にしないよ、俺は。」
にっこりと微笑んでそう言えば、今度はため息をつかれた。
「あれれ? もしかして牧野ってそう言うの気にするタイプだったりする?」
「美しくないな。」
「へ?」
「言葉遣いが。」
「へ?」
ポカンとしている俺を無視して、再度本を手に取って読み始めた君。あんまり良くは分からなかったけれど、君って面白いよね。だから目が離せない。俺は牧野の前の席の奴が来るまで、椅子に座って本を読んでる姿をジッと見つめる。
空いている窓からは、冷たい風が入ってくる。その風が、君の長い前髪をふわりと浮かせる。
その刹那、普段は見えない君の顔があらわになった。
「やっぱり、綺麗だ。」
ぼそりと呟くと、君は顔をあげて不思議そうに俺を見た。
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