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足りないもの 8
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息を切らしながら勢い良く保健室のドアを開けると、同じく保健室のドアを開けようとしていた生徒が目の前にいた。見上げると、その生徒は荷物を持ってキョトンとした表情をしている井成だった。
「え? ちょっ、そんなに急いでどうしたんだよ日坂。」
珍しそうに俺を見てくるその顔は、血色がいい元の顔色に戻っていた。息を整えたあと、俺は井成に言った。
「ごめん。」
そう、これを言うために来たのだ。
「今日、牧野と二人だけで飯を食わせて。」
目を見開かせて俺を見る。
「え、えっと、う、うーん……。」
納得がいかないのか、俯いて返事を濁す井成。俺は、牧野と喧嘩をしたから仲直りしたいんだという適当な言い訳をついた。まあ、間違ってはいないし大丈夫だろう。
すると、漸く納得してくれたらしい。「分かったよ。」と微笑んで応えてくれた。だが、俺が礼を言う前に切なげに付け加えられたその一言で、また悩むことになるのだった。
「やっぱり、俺なんかが一緒だと、邪魔っだったよな。ごめんな。」と、彼は言ったのだ。本当に、申し訳なさそうだった。
「そ、そんなこと言うなよな! 邪魔じゃねーよ。」
ついつい、いつもの癖でそんな事を言ってしまう。よくもまあ、意図も容易くこの口は相手をかばうような言葉を紡ぐものだ。こんなんだから、俺は八方美人から抜け出せないのだ。そして、井成は嬉しそうにニッコリと笑っている。
「そうか、日坂に邪魔って思われてるかと思ってたから、そう言ってくれて安心したよ。」
「……」
正直、邪魔だと思っている。だから、さっきの言葉を信じてしまった井成とは目が合わせられなかった。少しの罪悪感。
「今日の昼はそこら辺の奴らと飯を食うことにするよ。だから、日坂は牧野と仲直りしておいで。」
「井成……」
「あ、でも、その代わり今日の放課後俺の家で遊ぼうぜ。」
「えっと……」
「ダメか?」
ションボリと眉を八の字にさせて俺を見つめてくる。さっきの俺の発言の責任を取るのならば、それくらいすべきなのかもしれない。それに、俺と牧野の間を心配してくれている。俺はコイツのことを信頼しなさすぎなのかもしれない。
「日坂?」
返事に困っていると、井成が俺の名前を呼ぶ。それが、俺を追い詰めているように感じるのは気のせいだろうか。
「わ、分かったよ。じゃ、俺そろそろ牧野のところに行くな!」
足早かかとを翻し、食堂へと向かった。
早く、早く行かないと!
牧野が待っている。
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