アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
すれ違い
-
牧野の手、眼差し、声、すべてが温かい。
「日坂。」
俺の名前が呼ばれるたびに、鼓動が早くなるのが分かる。俺の寿命は、こうやって縮んでいるのかもしれない。
「なんだよ。」
至近距離で見つめ合う、俺とお前と。こそばゆくて恥ずかしくて、そして、ドキドキする。牧野が頭をコツンと、軽く俺の額に当てて微笑んだ。
「やっぱり、俺の特別はお前だけだよ。」
目を伏せてはにかむその姿を見て、俺もと笑って応えられる自分がいた。期待に沿いたくて、手を牧野の頬に寄せる。お互いに頬に手を添えている状態だ。
俺から牧野に口づけをした。
「日坂、好きだ。」
牧野だけだ。俺の心臓をバクバクとうるさく鳴らす事が出来るのは。
なんだか、泣きそうになった俺はそのまま牧野の方に倒れるように身を寄せ、大きな体に抱きついた。牧野は一瞬ぴくりと動いたが、すぐに俺の頭を優しく撫でてくれる。
「俺だって、お前が一番だ。」
抱きつきながら話したから、声が篭もって聞き取り辛いと思う。それを利用してか、牧野はもう一度言ってとくすりと笑う。
「ばか。」
恥ずかしい。言葉にできなかったけれども、この思いが伝わって欲しくて少しだけさっきよりも強く抱きしめる。
「そうか、ありがとう。」そう言って、牧野は俺を抱きしめ返すのだった。
しばらく経ったあと、牧野は俺に言う。
「さっき、俺のことを無防備だと言っていたよな?」
「え?」
「言っていた。」
「ああ、うん。だって、井成が最初に牧野と話してみたかったって言ってたじゃん。だからさ、井成がもしかしたら牧野のことを好きなのかもって思ってたんだよ。」
俺の方を見て、困ったように笑う牧野。どうして、そんな顔して笑う? 俺は結構真剣だったんだけど。もやもやしていると、牧野が口を開いた。
「日坂の方が無防備だと、俺は思うがな。」
俺は意外な言葉に驚いてしまった。だって、俺は無防備ではないからだ。牧野は、もう一言付け加えた。
「お人好し。」
ぽふんと俺の頭に手が乗っかった。
「俺はお人好しじゃねーよ。」
「じゃ、八方美人。」
「それ、ちょっと最近気にしてんだからあまり触れないで。」
「気にしてたんだな。」
驚かれた。
「気にしてるよ。何か頼まれると断れないところとか、優先したいことを優先できないでいるところとか。そう言った自分に苛立つことだってあるよ。」
置かれていた手が、髪の毛をわしゃわしゃと撫でる。
「お前のそういうところも好きだよ。だけど、ほどほどにな。」
「う……ん。」
牧野はとても温かい優しさをくれる人。居心地がいい。
「さて、日坂とこうして一緒にいられた訳だし、5限を受けに行こうか。」
「おう。」
4限終了のチャイムと同時に、立ち上がる牧野。つられるように俺もその場から立つ。
幸福に満ち足りた心。
なんでも打ち解け合った気がしていた俺。
だが、重要なことを牧野に伝えるのを忘れていた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
60 / 130