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すれ違い 3
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促されるように俺と井成は玄関から家の中へと入る。その時に牧野が井成を案内して先に部屋に行くように言ったため、俺はそのまま従うことにした。
「あれ? 牧野? 俺と日坂を置いてどこに行くんだよ。」
ずかずかと先に行ってしまう牧野の背中に問いかける井成。
「牧野が先に部屋に行ってろだってさ。だから気にすんなよ。ほら、この階段登るぞ。」
キョトンとした表情が面白くて笑ってしまう。井成は俺の後ろでキョロキョロとあたりを見渡している。そして、牧野の部屋を開けると……。
「うお! スゲー!」
井成がいち早く部屋を見ようとして身を乗り出しながらそう言った。俺も驚いた。この前に来た時はあんなに本で散らかっていたのに、今はその本たちが綺麗に本棚の中に収まっていたからだ。たしか、整理中だったって言ってたな。
とりあえず、廊下から牧野の部屋をずっと見ていてもなんにもならないので、俺たちは部屋の中にお邪魔した。
「失礼しまーす。」
初めてだからだろうか、井成が少しよそよそしくそう言う。誰もいないのに、俺もそれにつられて一礼してしまう。
「牧野って本当に本が好きなんだな。」
「ああ、そうだな。」
目を輝かせて言う井成を見て、なぜかもやっとした。
「うわ! この本懐かしい!」
勝手に本棚から一冊の本を抜き取る井成。その一冊の本とは、この前牧野が大切そうにしていたあの本だった。
「ちょっ! お前、牧野に怒られるぞ!」
俺は急いで井成から本を取ろうとする。だけど、井成は上に掲げて取れないようにしてきた。
「へへっ、ほーれほーれ。」
「井成!」
井成の方が俺よりも背が高いため、俺は背伸びをしても届かない。必死になる俺を見て更にからかい出すから、何て言うか、負のスパイラルだ。それでも、この本は牧野にとって大切な本なんだ。だから、俺は諦めずに本を取ろうと必死になる。
「そんなに、この本を俺からとりたいの?」
部屋の入口から牧野の低い声が聞こえた。やばい、見つかった。そう思って恐る恐るそちらを見れば、呆れと怒りとが混じったような顔をしている牧野がお茶を持って部屋に入って来ていた。井成の方を見ると、未だにヘラヘラしている。だが、本から興味がなくなったのかそれをすぐに本棚に戻してこう言った。
「別に。俺、この本持ってるし。本を取ろうとは思わないよ。ただ、コイツが面白かったからからかっただけだよ。」
笑顔の井成とは対照的に、睨んでいる牧野。部屋の空気が一瞬でぴりっとしている。
やばいよ! 牧野超怒ってんじゃん!
そんなに大切な本だったのか……
俺がちゃんと井成に本棚に戻すように怒っていれば……。
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