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すれ違い 4
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「ごめん。」
あの本が牧野の大事な本だっていうことを知っている俺が注意すべきだった。そう思って牧野の方を向いて謝ると、ため息をつかれた。そして「なぜ、日坂が謝る。」と牧野は言った。
牧野が睨んでいるのは井成だった。井成は笑っていると思っていたが、よく見ると目が笑っていなかった。
井成がこんな顔をしている理由がわからなくて二人を交互に見ていると、牧野が睨むのを諦めた。
「本とか別にいいよ。二人とも座れば? 飲み物持ってきたから飲もう。」
そう言って、牧野は机にコトンとお茶とコップの乗ったお盆を置いて座った。俺もその横に急いで座る。井成の方を見れば、少しバツの悪そうな顔をしながらも俺の目の前に座った。
よかった、どうやら仲直りとまではいかないけれど、喧嘩にはならないで済んだみたいだ。
ホッとしていると、牧野が俺にお茶を注いだコップを渡してくれる。
「あ、ありがとう。」
「どういたしまして。」
俺は知っている。牧野はパッと見いつも無表情でいるように見えるが、実は少しその表情にも変化があるということを。今の牧野は、少しだけ口が弧を描いているから、怒ってはいない。けれども、井成にお茶を渡すときは少し違った。まあ、触らぬ神に祟りなしという言葉も聞くし、あまり触れないでおこう。
それに、牧野は井成も家に呼んだんだ。だから、そう心配することもないだろう。
「牧野、何かごめんな。」
「何が?」
マグカップに入っているお茶はあたたくて美味しい。でも、若干熱いので息をかけて冷ます。その作業をしながら、俺は牧野に謝った。”何か”には、いろんな意味を込めているつもりだった。でも、牧野には通じていないらしい。困ったな。目の前には井成がいるっていうのに。
「その……あとで言う。」
コップに目を移すと、井成が口を開く。
「俺からも、ごめんな。本当は日坂と遊ぶ約束してたのに。牧野の家に誘ってもらっちゃって。」
その言葉を聞いて、俺はギョッとしたし、牧野は眉間にしわを寄せチラリと俺の方を見た。
いや、俺が言いたいのはそんなことじゃなくて……
井成からしたらそう捉えられてしまうことなのだろうが、俺からしたら全く違う。でも、この場でそんな事を説明できる訳がない。だから俺は、ただ黙ってお茶をすすった。
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