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すれ違い 7
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写真を見て、俺と井成が初めて会話したときのことを思い出した。
一年生のはじめ、俺たちの高校では青年の家に全員で泊まって規律正しい生活を2泊3日行うという行事があった。まだ出会って間もないクラスメイト。俺もその時はひっきりなしにいろんな奴と会話をしに行っていたっけな。井成も、そのうちの一人だった。
「やべっ、筆記具忘れた!」
一日目、開会式が終わって荷物の整理が終わる頃にレクリエーションが行われた。一人一人に配布された紙には、9つのマスがあって、その中に自分の好きな物や趣味などを書いていく時間だった。先生の説明によると、書き終わったら生徒が散り散りになって自分が書いたものと一致している人と出会ったらそのマスに丸印をつけて、早く縦・横・斜めのどれかが揃った人が勝ちというゲームをやるらしかった。
その時間に、俺は筆箱ごと部屋に忘れてしまっていた。焦った俺は、隣の真面目そうな奴に声をかける。
「なあ、悪いけどさ、余分に書くもの持ってない?」
そいつは無表情で筆箱をあさって一本のシャーペンを手に取って俺に渡した。
「これ、いいよ。」
ピクリとも笑顔を見せないそいつ。もしかしたら、イラついてるかもしれないと考えた俺は少しおどおどしながら感謝の気持ちを述べた。
9つ全て書き終え、先生の合図で生徒たちが動き出す。俺は手頃なやつからと、シャーペンを借りたそいつに話しかけた。
「あ、シャーペンありがとう。」
シャーペンを返そうとすると、眉間にしわを寄せられた。やっぱりなんか失礼なことでもしてしまっているのではないかと心配になっていると、そいつは口を開いた。
「今俺に返したら、丸つけられなくなっちゃうよ?」
「……。」
あ、そうだ。
単純にそう思った。固まっていると、そいつは初めて俺の前で笑った。
「俺は井成って言うんだ。君も4組?」
「え? ああ、うん。俺は日坂。井成も、4組何だ。」
「うん、よろしく。」
「よろしく。」
そう、これが俺と井成が初めて会話をした日である。その後も、2泊3日の間で井成と同じ班になったり、掃除場所が同じだったときは一緒に話をした。とは言っても、ほとんど俺が喋っていたが。
一度は軽く仲良くなったものの、その行事が終わって学校生活に入ると、俺は井成とは全く話さなくなった。
「井成って、超真面目だよな。」
「そうだよな。俺アイツのとなりだけどよ、授業中もノートにかじりついてずっと何か書いてんの。マジ怖ー、あれは病気だな。な? 日坂もそう思うだろ?」
ゲラゲラと笑う生徒。皮肉にも、井成はその真面目な容貌でクラスの男子生徒から真面目君というレッテルを貼られてしまったのだ。俺は井成に何かをしてやることはなく、ただ、クラスから浮かないように笑ってごまかしていた。
今考えると、俺って最低な奴だったな。
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