アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
番外編:心と距離11【完】
-
「さてと、スッキリしたところで、先生とお話しようか、坂下」
「拒否する」
「認めん」
Tシャツに短パン姿の初芝は、風呂上りということもあり一層美味そうだけど、今は何も話したくない。
風呂から出て来た初芝に、身体をタオルで拭いて貰うとか、服を着替えさせて貰うとか最高のサービスを受けたからと言って、傷付いた男心は、そう簡単に治らない。ちょっと放って置いて欲しい。
「坂下、お前さ、俺に心配かけたこと、反省してんのか?」
床に胡座をかき、腕を組んだ初芝に頷く。
膝を抱えた腕に顔を埋め、「でも」と口を開いた。
「…どうしても会いたかったんだから、仕方ないだろ」
「………仕方なくは、ないっつーか…あー…」
初芝は呆れた様にガシガシと、まだ湿ったままの頭を掻く。それから、大きな溜め息を一つ。
そんなに呆れることだろうか。ちょっとムッとなる。
俺、二日も我慢して、初芝不足だったんだぞ。普通、恋人なら会いたくなって当然だろ。それとも、初芝は二日くらい何ともないっての?
それはあんまりじゃねぇ?
そんな気持ちが顔に出ていたのか、初芝は苦笑いしながら首を振った。
「あー、悪い悪い。…お前のそう言う、真っ直ぐつーか、若さっつーか……学校じゃ少し困るけど、凄く嬉しい」
僅かに頬を染め、「嬉しい」とニッと歯を見せて笑った初芝に目を見開く。なにその笑顔。初めて見た。やっべー、超可愛い。
その笑顔に馬鹿みたいにドキドキして、上手く言葉が出てこない。息が詰まってるみたい。付き合って半年以上経つのに、なにこれ。恥ずかしくて、しょうがないんだけど。
「…旅行の話もさ、本当は嬉しかったよ。ただやっぱり、色々怖くてな」
「……バレたら、とか?」
「まぁ、それもないことはないけど、それよりも…良い思い出が、出来過ぎるのが怖い。お前が居なくなったとき、立ち直れる自信がないから」
「まだそんなこと言うんだ。何度でも言うけど…」
「坂下、お前の言葉は嬉しいし、その言葉を疑ってるわけじゃない。自分に自信がない、俺の問題なんだ」
「……、…」
その言葉に、開きかけた口を閉ざす。返せる言葉が見つけられなくて、悔しさに拳を握った。
正直、理解出来ない、訳じゃない。だって俺だって、ガキ過ぎて呆れられたんじゃないか、飽きられたんじゃないかって思った。その不安は、たぶんきっと完全にはなくならない。
初芝との間に年齢差がある以上、なくなることのない不安だ。
今は初芝に愛されている自信があるから不安はないけど、またちょっとしたことでこの不安は顔を出すだろう。
そんなものなのだろうと頭で理解したところで、気持ちまで割り切ることは出来やしない。
じゃあ、不安になったらどうしたら良いのか。考えること数秒、俺天才!と思える案が浮かんでハッとなる。
「先生…いや、健さん」
面倒くさくてごめんな。
そう呟いた初芝との距離を詰め、膝の上に置かれた手を両手で握る。
「俺、夏休みここで暮らすから」
俺達に必要なのはきっと、一緒に過ごす時間だと思うわけ。
ふとした時に、好きって言ったり抱き締めたり出来る距離が必要なんじゃないか。
「…………なに…?は、ちょっと待て。今の話の流れで、どうしてそう……まさか、大事な話って、それかっ!?」
「ん?あー…うん、そうそう」
いや、ホントはただ初芝の気持ちをちゃんと聞きたかったというか、擦れ違った末破局という最悪の別れを回避したかったというか。
大塚が怖い事言うから、変に色々考えちまったじゃないか。
「でさ、俺達、一緒に過ごす時間が足りないと思うんだ。俺が卒業したら一緒に住むんだし、練習がてらプチ同棲しよう」
「どう………お…お……落ち着け、坂下。それは、ちょっと…」
「鍵渡してよ、健さん。じゃないと、今日みたいなことが起きて、俺死ぬかもよ?それでも良いの、健さん」
「…いや、あの…坂下?」
俺としたことが、ここ何日か無駄にグルグルしてしまったわ。こんなの、俺じゃない。
グルグル悩むのは、初芝の担当。
俺はそんな初芝を囲って囲って、俺だけしか見えなくさせることに専念しなければ。他の野郎に目移りなんかさせない。
思考を通常回路に繋げば、良い案がザックザク出て来る訳だし。
プチ同棲、ホントすげー良い案だわ、これ。
「ほら健さん、カーギ。出して、早く。合鍵あるっしょ」
「………今日みたいなことを防ぐためだからな。悪用するなよ」
渋る初芝に、暑くて死ぬかと思った、お花畑見えた、数年前に亡くなった祖母ちゃんが手ェ振ってた、等と言っていたら、困った顔で立ち上がり、テレビの脇にある棚から小さめの布製の袋を取り出した。
そして中から銀色の鍵を出すと、おずおずと差し出してきた。冷たいそれを受け取り、まじまじと見詰める。
普通の鍵だ。何の変哲もない、ただの鍵。なのに、まるで宝箱の鍵の様に感じる。後光が見える。この場合、宝は初芝か。
なるほど、これは宝の鍵で間違いないな。
念願の初芝の部屋の合鍵を手に入れ、テンションが空高く上って降りて来る気配がない。戻って来ないかもしれない。
「聞いてるのか?」
「悪用ね、例えば?夜這いとか?」
「よば………やるなよ」
「夜這いは文化だ、健さん」
「か…鍵を、返せ」
カッと真っ赤になった初芝が飛びかかってくるのを受け止め、鍵を取られないようにぎゅうっと抱き締める。
やばい、夏休みが楽しみすぎる。
初芝とのプチ同棲に思いを馳せながら、目の前にあった額にキスをした。
完
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
41 / 50