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番外編:王子様の王子様
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僕の初恋は、幼稚園生の時だった。
同じキリン組のリョウちゃん。皆で鬼ごっこをしている時に、鬼役だった僕から逃げていたリョウちゃんが盛大に転んだ。
その時に膝を擦り剝いて、大泣きをしていた顔が凄く可愛くて、胸がドキドキしたんだ。
でもリョウちゃんは、男の子だった。幼稚園の先生に、リョウちゃんと結婚すると言ったら、それは出来ないのだと言われて、とてもショックを受けたのを覚えている。
「彩斗くん、あのね、男の子同士は結婚出来ないの。だって普通じゃないんだもの。考えてみて、園長先生とバスの運転手さんがすごぉく仲良さそうにお手手繋いでたら、気持ち悪くない?」
園長先生は、太ったおじさん先生だった。クリスマス会の時、サンタさんの手伝いをする為に、あえて太っているのだと言っていた。いい人だったと思う。
バスの運転手さんは、四角い顔をした、青髭の濃いおじさんだった。でも、折り紙が得意で、園児達からは大人気。こちらも、いい人だったと思う。
けれど小さかった僕は、二人が仲良さそうに手を繋いでいるのを想像して、ビジュアル的に「あ、ないな」と思ったのだ。確かに、ちょっと気持ち悪いと。
「……ぼく…その、ごめんなさい」
「良いのよ、彩斗くん。わかってくれたなら。良い?男の子は女の子を好きになるのが、自然なことよ。特にイケメンは、遺伝子を残さないと。ね?」
「…?…はい」
先生の言いたかった事は、今なら何となくわからなくもない。それでもやっぱり、僕の恋愛対象は男の子だった。
中学に上がると恋愛の話は増え、何組の誰々が可愛いだの、胸が大きいだの…そんな事で盛り上がる男子を、どうしてもそう言う目で見てしまっていた。もちろん、それがおかしい事だとは、幼稚園で教わっている。
だから、男が好きだと誰にもバレないように、女の子とも付き合って、それなりに経験を積んで……。ごく普通であろうとした。
高校生になっても、それは変わらなかった。
あの日の朝が来るまでは。
「昨日バイト先に、ホモが来たんだけど!なんか、野郎同士なのに手ェ繋いでんの。まじねーわ」
「キメェな」
「だーろ?しかも、ゴム買ってってよぉ」
「おええ、やめろよ、気持ち悪ィ」
朝のホームルーム前に聞こえてきた会話に、背筋がスッと冷える。
もしバレればあの会話の対象は、自分になるかもしれない。そうなったら、この平和な学校生活は、あっという間に地獄と化すだろう。
絶対にバレちゃいけない。
今は自分の事ではなくても、気分が悪くなるほど不安になった。
「ふあ~…うぃー、はよーっす」
「お、園田おはー。なぁなぁ、聞けよ、こいつのバイト先に」
異端者をとことん攻撃したいのか、登校して来た奴にまた同じ話をし始める。どうせ反応は想像が付く。
わかってるさ。これが当たり前で、間違っているのは僕なのだと。味方などいない。
「ホモだぜ?ホモ。気持ち悪ィよなー」
自分に言われているのではない。
けれど、吐き気が込み上げてくる。
頼むから、もう止めて欲しい。僕が悪い。わかっているから、もう責めないで。
ぐっと爪が手のひらに食い込むほど強く握り、次の拒絶の言葉に耐えようと身構える。けれど。
「んー?別に、いんじゃね?個人の自由っつーの?気持ち悪くはねぇかなぁ」
拒絶の言葉ではなかった。ハッと俯き気味だった顔を上げ、会話の方へ視線を向ける。
そこには紙パックのジュースを飲みながら、スマホを弄る何とも頭の軽そうな男子生徒。茶髪に染められている髪は、傷んで見えるし、ピアスや着崩した制服も、遊んでいる印象を強くしている。
今の言葉は、本当に彼が?
聞き間違いだったのでは、と思っていると周りの男子生徒が、まじかよと顔を顰めた。
「ちょ、本気か?さては園田…お前もホモだな!」
「やめて、苛めないで!あゆの心は、乙女なの!」
「ぶっ、きもい!」
「こら園田、馬鹿やってないで席に着きなさい。ホームルーム始めるぞー」
「え、ちょっと!何で俺だけっ!?」
やめて、と両手を胸の前でクロスさせるポーズを取り、彼…園田くんは腰をくねらせた。その仕草に、同性愛に偏見のあるらしい生徒達が吹き出す。
何となく嫌な空気が流れていた場所が、途端に明るくなった。しっかりと自分の意見を言えて、でも不思議と反感を買うことのない存在。
凄く、キラキラして見えた。
始めは純粋な尊敬だったと思う。自分も、あんな風に正直に生きられたら、きっと楽だし楽しいのに。
それから気付くと彼を目で追っていた。同じクラスになって二週間ほどだけど、まともに話したことはない。
話してみたい。もっと彼のことが知りたい。でも、あの輪に入るのは、怖かった。情けない自分が嫌になる。
近寄れもせず、ひたすら見詰め続けていると、段々とこれが尊敬だけではないと気付いた。
他の男子…特に、坂下と一緒に居るのを見る度にイライラとして、胸が苦しくなった。どうして、隣りに居るのが僕じゃないんだろう…と。
中学が同じでも、坂下とはそれほど親しくなかった。何故かは忘れたけれど、連絡先は知っている。けれど、お互いに積極的に連絡を取り合おうとは思わない。
僕は女の子を取っかえ引っかえする坂下が苦手だったし、坂下は誰にも興味がなかった。いつも輪の中に居るようで、決してそこに属しているわけではない坂下は、何となく得体の知れないモノのようにも思えた。
そんな坂下が、園田くんとはクラスが変わっても一緒に居る。これは特別な感情があるのでは、と疑うのは当然だ。
もし、“そう”だったら。そう考えて、悔しいと思いつつも肩を落としたのは、坂下が相手では勝ち目がないと、わかっていたから。
諦めよう。僕なんかじゃ、園田くんに好かれるわけがない。
そう納得させようとしている時だった。
いつぶりか、坂下から連絡があった。
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