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番外編:記念日3
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初芝が観たがっていたのは、ラブストーリーでもクリスマス関連の映画でもなく、米国のスパイアクション映画。初芝は、FBIやらCIAやら、そういったものが好きだ。レンタルショップで借りてくるのも、そう言う海外ドラマやミステリー映画。犯人を予想するのが楽しいんだとか。
俺としては、楽しんでる初芝を見てる方が楽しいけども。
「女だと思って、嘗めないことね」
「いいね、強気な女は、嫌いじゃない」
スクリーンには、銃を向け合う三十代前後の男女がいる。敵のスパイ同士だ。簡単に予測できることだけど、たぶん最終的にこの二人はくっつくのだろう。銃を向け合いながらも、二人の瞳の奥には燃え上がる同じ色の炎が見えた。
どんな映画にも、たいてい恋愛要素は付きものだ。その要素がいなければ、いまいち盛り上がらないのかもしれない。以前は興味のなかった要素だけど、今はそれ程悪くない。
男女のキスシーンを見た初芝が、中学生の様に頬を染める様は、何度見ても飽きないから。俺達、もっと凄いことしてるのに。
「次会ったら、その減らず口、叩けないようにしてあげる」
「そりゃあ、待ち遠しいね。楽しみにしているから、アッサリ死なないでくれよ」
「ふん、そのままお返しするわ」
ちょっとうるさいくらいの爆音が轟き、スクリーンが赤く染まる。
ふと初芝を見ると、食い入るようにスクリーンを見つめていた。その横顔からは、僅かに緊張感が伝わってくる。
肘掛けに置かれた手は、硬く拳が握られていた。俺も何だか、変な緊張に襲われながら、その手にそっと自分のそれを重ねる。
ピクリと指が動き、初芝の視線が重なった手に向けられ、次いでこちらに向けられた。けれど、恥ずかしくて視線を合わせない様に、スクリーンを睨み付ける。内容は全く入ってこない。それでも、余裕ぶりたくて映画を観ているフリをした。
手を握ったくらいで、馬鹿みたいに心臓が飛び跳ねているんだ。ガラにもなく、恥ずかしがってるなんて気付かれたくない。
「……?、…!」
緊迫感漂うBGMが流れ、スクリーンは高層ビルが建ち並ぶ都市を上空から映し出している。
そんな中、初芝の手がもぞりと動き、控えめに握り返された。初芝を見ると、さっきの自分の様に真っ直ぐにスクリーンを睨み付けている。だから、照れているのだと直ぐに理解した。
そのままぎゅうっと握り合ったまま、映画が終わるまでスクリーンを見続けていた。初芝はどうか知らないが、やっぱり内容は全く頭に入ってこなかった。
エンドロールが流れ始める。チラホラと席を立ち始める奴らがいて、エンドロールが終わり明るくなりだすと、さすがに手を放された。ひやりとする手のひらが、少し淋しい。
「……帰るか」
「あぁ。今日は、俺ん家おいでよ」
「え」
「ちょ、えって何。嫌なの」
ゴミを持ち、立ち上がろうとしたけれど、初芝の反応に思わず動きが止まる。般若化しそうになる顔面の筋肉を落ち着け、精一杯の笑顔を浮かべたつもりだが、初芝の顔が引き攣った。
失敗したようだ。
「…いや、あの、今日もこっちだと思ってたから…。ケーキとかも、用意してあるんだ…」
「……そう、なんだ。健さんも…」
「…てことは、お前も?」
「まぁ…でも、せっかく健さんが用意してくれたなら、今日もそっち行こうかな」
初芝も楽しみにしてくれていたようで、般若化しかけた機嫌は一気に上昇する。
そうと決まれば、早く行こう!今日なら全身舐め回しても怒られない気がする!
興奮気味に歩き出す俺の隣りで、しかし初芝は「いや」と口を開いた。
「今日は、お前の家に行く。誘うからには、親御さんは不在なんだろうな」
「海外出張中」
「そうか。じゃあ、お前の家に行こう。……美鶴」
「!、いらっしゃい」
「気が早ェな…」
呆れた笑みを浮かべつつも、初芝の頬は赤く染まっていた。
何だか、いつもより初芝の雰囲気が柔らかい。これが聖夜の奇跡というやつなんだろうか。
それとも映画デートの効果だろうか。それなら、また行こう!と提案したところ、即座に却下された。あれ?柔らかい雰囲気は?
「たまになら悪くないけど、お前目立つからやだ」
「それは俺が格好良すぎると」
「幸せな脳味噌め。まぁ…でも、そういうことだ。他の奴らに、あんまり見せたくない」
「独占欲…」
「悪い、かよ…。たぶん俺、お前が思ってるより重い奴かも」
「大丈夫。それなら、負けない自信がある」
初芝を外に出したくない。
誰の目にも、触れさせたくない。
ずっとずっと、俺しか見えないようにして、俺にしか初芝を見られなくしたい。
閉じ込めて、初芝の世界が俺一色に染まれば良いと思ってる。
そう、正直に語ってやったら、心底引きましたって顔をされた。おい。
「嫌がっても逃がさないから」
「…ふっ、ははは、やっぱお前怖ェわ」
こっちは真剣に言ってるのに、初芝は子どもの様にキラキラと笑い出した。その可愛い笑みにキュンとしつつ、とりあえず激写。
早く帰って、ギュッてしたい。
自然と早足になるけど、初芝は何も言わずについてきてくれた。
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