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幻想リアリズム(訳:真逆)
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チャリンコ漕いで地元のスーパーに出向いた。ちょうど夕飯の買い出し時間で、タイムセールをねらってる主婦達で溢れかえってる。俺はそんな主婦達の間を潜り抜け、業務用スーパーで買えよ、ってぐらいの量の豆腐を大量にカゴに放りこんでいく。周りの人の目が痛いけど、こんなのはいつものこと。大量の豆腐を入れたカゴを積んだカートを引きながら、お菓子売り場に足をはこんだ。今日のおやつはなんにすっかなー、ついでに明日学校で食べるお菓子も買ってかえろ。
お菓子類が大好きな俺の足取りは軽い。るんるん気分でお菓子売り場を覗くと、そこには赤い頭のデカイ男がしゃがみこんで、真剣な顔でちっこいフィギュアが入ったお菓子の箱を吟味していた。
「なにやってんの?ダビデくん」
はたからみたら完全にイタイ人こじらせてるこいつを俺は知っている。知ってる人に会うと声をかけずにはいられない俺。背後から聞こえた俺の声に、大袈裟なほどビクッとするダビデくん。ギギギ…とまるで機械のように振り向いた残念なイケメンは「コンニチハ!奇遇デスネ!」とアホみたいなことを言い出すもんだから思わずブッ と噴き出してしまった。
「奇遇ですねぇ?お前、そんなの好きなんだ?意外なんだか意外じゃないんだか」
「クソッ!こんなところを妖狐に見られるとはな…!」
「まだ妖狐設定生きてたの?!
ダビデくんの隣にちょい、とうんこ座りをして、ダビデくんが持ってる箱と同じ絵のパッケージを手に取る。パッケージには「フルーツ☆ラブ」と書かれていて、色とりどりの髪の色をした女の子の絵が並んでいる。
…。ダビデくんってもしかして、オタク?
「で、どれがほしいんだよ」
「えっ、…り!りんごちゃん!」
「わかんねー!りんごちゃんってどの子?」
「この艶やかな肌、罪深い真紅の目、愛らしい紅色の髪…この子がりんごちゃんだ」
「へぇ?。お前趣味悪いね。これ中身ランダムなんだ?」
「失敬だな!そう。僕は帝の選別者、この密封され、隔離されてしまった林檎ちゃんを救いだすことがミッション。…ただ、僕は今、万物を手にすることができる魅惑の呪符(訳:お金)を切らしていてね…。一つしか手にすることはできそうにない。この数十個もあるうちの、一つだ。失敗は許されない」
「ぶはっ!なに言ってんのか最早わかんねーけど、この赤い子が欲しいのね。…ん?」
ごっそごっそと棚の奥の方に手を伸ばして、適当に一箱ひっつかむ。それをダビデくんの胸元に押し付けると、キョトンとした顔をされてしまった。あ、もしかして俺の行動の意味がわかってない?
「それ買えよ。俺くじ運強いからさ、信じろ。…ってかこれ300円なの?!やっす!」
今手持ちが300円しかないというのは、高校生としてどうかと思うぜ、ダビデくん。
「妖狐には透視能力も存在するのか?!くっ、…ますます知能の高い妖怪だ」
「そーそー。なんでも知ってっかんね俺。さーてと、俺は明日なんのポテチ食うかな?」
す、とダビデくんの隣から立ち上がり、自分の用事を済ませるためにカートを引きながらその場を離れようとすると、 ぱしっ とダビデくんに腕を掴まれた。ゆっくり顔を上げると、それはそれは挙動不審な顔で、焦った態度で、なんなら鼻息荒いぐらいの勢いで、口をもごもごと動かしている。なんだ?まだなんかあんのか?つーか!その顔よ!笑ってはいけない、笑ってはいけない、人間が最高に不細工に見える角度から、鼻の穴が広がったイケメンを見てるんだ。そりゃぁもう、愉快愉快。でも何かを言いたそうにしてるのに笑い飛ばしちゃ悪いよなー。つーかもう腕掴まれて2、3分経過してね?ぶふふっ!どんだけ口ごもるんだよ!やっぱウケるわこいつ!
「あの!…なんでそんなに絹ごし豆腐買ってるんだ、もしやなんらかの儀式を行い僕のことを消す気か?!…おっと、それより!あ!あの!あ、ありがとう!」
「………えっ?!なんの感謝?!」
意味がわからなくてじっとダビデくんを見つめると、汗ばんだ手のひらが離れて行った。そして次に口にだした言葉に、俺は涙が出そうだ。
「僕は契約者がいないから。こうやって誰かとコンタクトがとれることは、…歓喜すべきことだ。」
…。つまり友達がいなくて一人で寂しくお菓子売り場の子供用のオマケ付きお菓子の前で一人遊びしてる中、俺が話しかけてくれて嬉しかった、ということか。まてまてまて、健気じゃん?純粋じゃん?つーか、…寂しい奴、なんか哀れ。俺はおもしろがってちょっかいかけてっけど、そりゃこんな個性的だったら契約者(友達)なんてできねーよな。
「豆腐はさぁ。大勢で囲って食うんだ。この白いボディを八つ裂きにして煮え立った湯の中に沈めてよ、瀕死になったとこを掬い上げて…ぱくっ」
「………ッッ!まさかそれは…太古の昔から伝わる清めの儀式…!」
「いや、湯豆腐」
「…。えらく、配偶者が多いのだな」
「配偶者?!ぶっ!あは、あはは!ちげーよ!なに言ってんのお前は!これは…親戚が来てんだ。俺は買い出しにパシらされたってわけ。…ダビデくん、アイス食いながら一緒に帰ろうか」
「そんな冷酷な天使(訳:アイス)を手にできるほど僕はチップをもっていない。僕にはりんごちゃんという存在がいるのでね。」
「ははっ!ひーっ!お前最高だね?先輩が誘ってんだから、そういうときは『俺金ないんで奢ってください?』つってたかるのが普通なの!」
俺は棚に陳列してあったポテチ(コンソメ味)をカゴの中に放りなげて、ダビデをつれてアイス売り場に引っ張る。ちょっと焦ってるダビデくんに好きなアイスを選ぶようにいうと、チョコのアイスを選んでおずおずと持ってきた。
「甘美なバンビーナ(訳:チョコレート)…。冷酷の世界に身を落とすと、ますます美味と化す…罪だ」
「甘美なバンビーナ!!?あははっ!あはっ、なんじゃそりゃ!チョコレートっていいてぇの?あーウケる、んじゃ俺は抹茶にしよー」
「うっ、…それは京の都秘伝の劇薬…!」
「ダビデくん抹茶嫌い?お子様だねぇ?可愛い可愛い。さってと、レジ並ぶかな。」
俺、なんかダビデくんの言葉を理解できるようになってきた?かも。すげーね、慣れっていうのはさ。
スーパーを出て、大量の豆腐を自転車に積む。それをおしながら、俺は抹茶アイスを食べながら家まで歩く。隣には目立つ赤髪、オッドアイ、へんな包帯、真っ黒い服。チョコアイスを食べながら俺の隣を一歩下がってついてくる。
「ダービデくん。誕生日は?」
「13月13日だ。サタンの日だ」
「スゴーイ。血液型は?」
「我が身を循環しているのでね、人間のいう血液型というものには収まりやしないさ。この穢れた血は…な…」
「ぎゃはっ!あはっ!ふふ!ダビデくんってさ、まじ、残念なイケメンだな!いつからそんなんなの?疲れね?キャラ保つの」
「きゃ、キャラじゃない!!僕は一億年ほど前からこうなる運命だったのさ」
「酔いしれてんねぇ?自分に。ふぅん、へぇ、…じゃあお前、童貞?」
「…僕は魔法使いにはなりえない。もうすでに、ピーターパンではいられなくなってしまったからな」
「え!!!童貞じゃないの?!!」
「シャーラップ!声が大きい!」
意外すぎて驚きが隠せない。すげぇな、もうすでに童貞じゃねぇってことは中学の時にもう体験済みつーことだろ、ぎゃー早熟!こんななりしてっけど顔はむかつくほど整ってんもんなー、そりゃ変わった女の一人や二人ぐらいはついてくるか。…って、まじ?すこしの疑いの目、嘘をついているとは思えないけど、こいつが童貞じゃないというのも信じがたい。じいっと色の違う目をみつめると、ふい、と顔を逸らされた。
「か、んちがいしないで。寝込み、襲われただけだから」
「は?!なにそれスゲー体験じゃん!詳しく教えて?!」
なになにその面白そうな話!寝込み?襲われたって?!こいつが?!はは!まじか!
しゃり、しゃりと、溶けて行くスティック状の抹茶アイスを舌の上で転がしながら話題に食いつくと、ダビデくんは今までで一番困った顔をしてみせた。んー、しくじった。ちょーっと要らねぇとこ踏み込んじまったなーと少しの後悔。きっと、濁すということは。なにか、ある。やっぱり咄嗟についてしまった嘘だったんじゃねーのー?な、ん、て。まっ!なんでもいいんだけど!
「そんなブスな顔すんなよダビデくん、しゃーねぇな、じゃあまた今度。気が向いたら教えろよ」
「…気が向いたら。」
「おう、待っててやんよ。特別な。…じゃあ俺、こっちだから!」
「あ、うん、また明くる朝が巡りくるまで」
「挨拶がなげーよ!」
踏切の向こうは極道の世界。俺の組のシマ。志摩組のシマ、なんてなんかダジャレみたいだ。家がバレるわけにはいかない。自分で誘っておいてここまで約五分ちょっと。この先にお前の家はないはずだ。お前みたいな面白いやつを、俺が俺の家のシマでみつけられないはずがない。ダビデくんに背をむける。チャリンコにまたがって踏切をわかって、あ、そうだ、と思い出す。俺が一緒に帰ろうとさそった本当の理由、まあちょっと喋ってみたかったってのもあるけど、それより。今日も一人だったのなら、きっと明日も一人だろうから。一緒に昼飯くおーぜって言いたかったんだった。ダビデくんの意外な事実にビックリしすぎて忘れてたけど。カンカンカン、踏切の音がして電車が通りすぎる。パッと振り向いてまだダビデくんが視界に映る距離にいたら、昼飯食おうって言おう。そう思って振り返る。振り返って、驚いた。
「嘘、だろ」
赤い髪、黒い服、細い体、あの後ろ姿は確実にダビデくんなんだけど、さっき来た道を戻っている。…もしかして、俺と家、間反対、なのか…?
なに、なに一丁前に気つかってんだ?!
ちょっとまって、あいつ本当に面白い!
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