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真紅に囚われし愚かな下僕(訳:女遊び)
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儀式を始める。
漆黒のテリトリー(訳:自室)の中心で神に祈りを捧げ(訳:正座)、先ほど妖狐の彼に選別してもらった運命を別つ魅惑のスペクタクル(訳:ミニフィギュアつきお菓子)に手を伸ばす。
呼吸を一度整えて、呪文を唱える。
「ダークシンフォニアブレイク!!レリーズ!」
そして封印を解いた。心臓が高鳴る。瞳を瞼の裏に隠し、もう一度呼吸を整える。手のひらに召喚したそれをうっすらと目を開けて確認すると、
「う、わあぁぁ…!!り、リンゴちゃんだ…!!!」
本当にリンゴちゃんがそこにいた。可愛い。可愛い可愛い可愛い可愛い。リンゴが無邪気に僕に笑いかけてくれている。可愛い。まだ魂を吹き込んでいない(訳:組み立ててない)から、頭と胴体と下半身はすべてバラバラだけど、この真紅の髪と罪深い大きな瞳は紛れもなくリンゴちゃんで、可愛い。可愛い…!!
まさか本当に一度でリンゴちゃんを手に入れられるとは思ってなかった。この子にならいくらでも貢いでもいいとさえ思っている。僕の萌え引換券(訳:お金)は彼女のためにあるといっても過言ではない。
嬉しい。まだ魂を吹き込んでいないリンゴちゃんに頬ずりをする。正直中身のなんかよく分からないお菓子など必要ない、リンゴちゃんさえあればそれでいいのだ。しかし、僕一人の力ではこの奇跡はなし得なかっただろう。なぜなら鳥籠(訳:お菓子のパッケージ)を選んだのは、あの忌々しい妖狐だからだ。
へら、っと笑って妖狐が口走った言葉を思い出す。「俺、妖狐だから?」……じゃなかった、それはきっと未来の彼が口走るだろう言葉だな。僕には未来予知の能力(訳:妄想)が備わっているからいけない。
そうじゃなくて、「俺くじ運強いから」といったアレは本当だったらしい。
「明日、何か捧げなければ」
きっと神に愛されているのだろう。神の愛息子…ふっ、残酷だな。妖狐であり、神の愛息子であり、ますます興味が湧いてきたよ、志摩雷蔵。
「ふははは!明日!やはり契約者になろうと申し出てみようか!!ハハハッ!」
高笑いをしているとコンコン、と部屋の扉がノックされた。ビクゥと跳ねる肩、そして柔らかいお母さんの声。
「桜ー!うるさいわよ、ご近所迷惑でしょ、ご飯できてるから降りてきなさーい」
「あっ、お母さん。ごめんなさい今行きます」
リンゴちゃんにそっと布団を被せ部屋を出ようとすると、ブーブーとけたたましく僕を呼び出すイミテーションバイブレーションリズム(訳:スマホのバイブ音)
どの堕天使からの知らせか確認しながら、階段を降りる。画面にでかでかと映し出されている二文字を見て、気分が一気に沈んでいく。
「由美」
僕がむかし本気で恋をした唯一の女性。彼女は大人で僕はまだまだ子供だと、そんな理由で遊ばれ続け今にいたる。身体の関係だけはあるなんて、そんな不純な僕と彼女。
僕はなぜか、逆らえない。彼女はきっと女神の生まれ変わりで、僕はそのしもべだったのだろう。前世の話だ。
「お母さん、僕やっぱりご飯は後で食べます。」
「あら、どこか出かけるの?」
「…はい。友達のところへ」
彼女からの誘いは必ず、バイブ音が二回。靴を履いて家を出る、あ、包帯外し忘れた。乱暴な手つきで左手に巻いている包帯をはずしてポケットに突っ込んだ。春先とはいえ、夜になると肌寒い、なにか上着を着てこればよかった。…その必要もないか、家を出て角を左にまがると、赤い派手な車が止まっている。それは見慣れたもので、それの運転席に乗っている人を僕は知っている。
車に乗り込んだらすぐにホテルへ、いつも通りのパターンだ。
コンコン、と車の窓をノックする。僕に気づいた彼女がロックを外し、僕は慣れた手つきで車のドアを開けて助手席に乗り込む。タバコの臭いと香水の匂いが混じった車内、この人に会うと、僕は人間になる(訳:正常のふりをする)。
「お久しぶりです、由美さん」
「久しぶりね、またすこし背が伸びた?」
「お陰様で。今日は何の用ですか」
「ふふ、知ってるくせに」
赤い口紅が引かれた唇が弧を描く。僕の通っていた中学の、養護教諭だった由美さん。中学でも契約者が出来なかった僕は、僕に笑いかけてくれる彼女のいる保健室がすきだった。消毒液の匂い、日の当たるベッド、彼女がいれてくれる温かいお茶。
そして、彼女自身。
恋をしていた、子供ながらに真剣に。どう歪んでこうなってしまったのか、もうよく分からない。
カチ、っとタバコに火をつける。その仕草、入学式の日にも見たな。貴女じゃない、別の人。貴女の唇の色と同じ色のカーディガンを着ている、妖狐、神の愛息子、変な人、よく笑うひと、僕を小馬鹿にするくせに僕に優しくしてくれる人。なぜ、今彼を思い出したのか。それはきっとさっきリンゴちゃんを鳥籠から救い出してくれた感謝がまだ胸に残っているからかもしれない。
彼女の吸うタバコと、彼の吸うタバコの臭いが全く同じだからかもしれない。
「由美さん。そのタバコ、なんていう銘柄なんですか」
「あら、煙草に興味があるの?私が吸ってるこれは、デュオメンソールよ。女の子に一番人気の煙草なんじゃないかしら」
デュオメンソール……ッ!
とてもカッコイイ名前じゃないか、今度何かの呪文を作る時に起用しよう。「デュオ」という単語を。
「それ、契や……先輩が吸っていたので。気になっただけです」
「女の子?妬けるわね?」
「からかわないで。男ですから」
「男?!珍しい。この煙草、女煙草よ」
灰が長くなっていく。慣れた手つきでそれを灰皿に落として、火をもみ消した彼女は、チラリと僕を見て口を尖らせる。
「お友達、できたのね。」
まだ契約者ではないですけどね。彼に一度契約者になることを拒まれてますけどね。僕は契約者がいない。クラスでも柳くんぐらいしか話す相手がいない、登下校は一人、お昼ご飯はあの妖狐と食べる。
だからかもしれない、なぜか、彼の隣は温かい。楽しい。歓喜なるバンビーナ。
信号待ち、停車した車、異様に僕を見つめてくる彼女。ため息をつきそうになるのを飲み込んで、赤い唇に誘われるように顔を近づける。
…なんだかいつもより気持ち悪い。
ぐるぐる、ぐるぐる、ぐるぐる。頭の中に巡るのは赤。
彼女の好きな赤、彼女の唇の赤、僕が真似した赤、彼の温かい赤。混じり混じって白目剥きそう、どうしてここで彼がでてくる。僕に友達がいないからか。そうか。
ホテルについたら、獣のように。
僕はこんなことがしたかったわけじゃないけれど、僕の性欲は恐ろしい。彼女の短い黒髪が、どうして彼の黒髪と被る?
彼女の細く白い体が、どうして彼の、
(僕、人間になるタイミング間違えたかもしれない)
相変わらずの早漏でごめんなさい。でも今日はとっても、貴女じゃダメな気分です。
早く明日にならないかな、明日になったら彼に真っ先にありがとうって伝えて、タバコをお礼に渡すんだ。
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