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寝室と玉ねぎ side Y
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頭を撫でてやると、冬真は力なく笑った。その表情には、はっきりと疲れが見えていた。それはそうだろう。この3日間で、俺も冬真も状況が一変している。この森の中で、静かに『死』だけを見つめて生きてきた冬真には、心も体もこの状況に追い付いていけないのだろう。
「疲れただろう?寝室で少し休むか?」
俺の問いかけに、冬真は俺の腕を掴んで、首を横に振る。
「でも、顔色もちょっと悪いよ?少しだけ眠るといいよ。」
「大丈夫......」
「でもさ、今、無理してまた熱でも出ちゃったら、これからの楽しいことが台無しになっちゃうぜ?」
「楽しい...こと...?」
「うん。一緒にこの周りの散策もしたいし、お前が楽しみにしていたカレーも食べられなくなっちゃうよ?」
「あっ......」
「だろ?」
「でも......」
「でも?」
冬真は何か言い淀んでいた。
「大丈夫だよ。言ってごらん。」
「休むけど...寝室じゃなくて...ソファーじゃダメ?」
「ダメじゃないけど...ベッドの方がキチンと休めるだろ?」
冬真は俯いて、黙りこんでしまった。
「じゃあ...ソファーでいいから少し横になれよ。それならいいんだろ?」
「うん...」
冬真はまた力なく笑った。俺は冬真を横抱きにして、ソファーまで運ぼうとした。
「ちょっと...?」
冬真は細やかに抗議する。
「いいじゃん!落ちないように手を首に回して。しかし...軽すぎるぞ!カレー沢山食べるんだぞ。」
「うん...」
冬真は頬を朱に染めながら返事をした。
かなり疲れていたのか、冬真をソファーに横たえさせてから5分も経たないうちに、静かに寝息が聞こえてきた。相変わらずのあどけない寝顔に見とれそうになった。俺は首をブルンブルンと横に振り、
『こら!こら!』と自分を叱責し、何か掛けるものをと寝室を探した。数ある扉を開いたが、リビングと対極にある、一番最後に開いた部屋が寝室だった。そこは広い部屋にダブルベッドとサイドテーブル、フットライトだけが置かれた、質素と言うよりは、かなり寂しく、冷たい印象が残る部屋だった。ベッドからブランケットを引き抜き、退出する際に、もう一度、部屋の中を見渡した。その時、絹枝さんの言葉を思い出した。この大きいベッドで、無気力に一人ぼんやりとしている事が多い冬真。俺はその情景を思い浮かべていた。それはあまりにも切なくて胸が痛んだ。修くんが心配するのも当然だ。
さっき、ここで休むことを拒んだのも...寂しかったからなのかもしれないな…
そう思った途端、涙が一筋、頬を伝った...
「あれぇ......?」
俺は慌てて涙を拭うが、反対側からも一筋伝ってきた。
幸せにしよう!俺の力で!
絶対、絶対幸せにしよう!
改めてそう思った。
寝室の扉を閉め、リビングに戻った。冬真にブランケットを掛けると、慌ててキッチンへと急ぐ。冬真が目覚めた時、この涙を不審に思われないように、俺はカレー作りを始めた。取り敢えず、玉ねぎの処理をしていれば…怪しまれないだろうから...
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