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「山瀬さんの誕生日」という単語を耳にした柚木は、ほとんど放心状態のまま自分のアパートへと帰って来た。
東雲組の幹部といえども、驚くほど豪華な暮らしができているわけではない。一般的なものより少しだけ広い部屋で、柚木は一人暮らしをしていた。
綺麗好きの彼の部屋はいつだって整頓されていて、家具や内装はシンプルだ。いつもだったら落ち着ける筈の我が家だが、今日は濃紺のソファに身を沈めても落ち着くことなんてできない。
「たん、じょうび...」
スーツを着たままソファに座って息を吐き出すように呟き、先程獅琉から聞いた話を反芻する。
明日、11月24日はどうやら恋人である山瀬紘の誕生日らしい。勿論人間であれば誕生日があるのは当たり前なのだが、今日のこの瞬間まで一瞬だって意識して考えたことがなかった。獅琉は、柚木がその日を知らなかったことに少し驚いていたが、「アイツもあの歳でわざわざそんなこと言わないかもな」と苦笑していた。
確かに、そんな話など一度もしたことがなかったし向こうも自分の誕生日がいつかなんで知らないだろう。だから知らなかったことは仕方がない。
それでも知ってしまった以上、何かしてあげたいと思ってしまうのは当然だ。それが特別な相手ならなおさら。
どうして前日になってから休みなんて言い出すんだ、もっと早く教えてくれてもよかったろうに、と獅琉を少し恨みがましく思うが、彼の性格を思い出してやめた。
麗さんのことしか頭にない若が、こんな理由で休みをくれただけでも相当気を使ってくれた筈だもんな。
「それにしても...」
深い溜息を吐いた柚木は、ソファの背もたれに寄りかかって天井を仰ぐ。
「休みをもらっても、何をしてあげたらいいんだろ...」
咄嗟に思い出すのは、毎年行われている麗の誕生日だ。誕生日といっても、麗が生まれた正確な日付は不明のため東雲組に迎えられた日なのだが、毎年その日にはケーキを作りささやかなプレゼントを贈って麗の成長を祝っている。
だから、一般的な誕生日の過ごし方は知っているのだ。
ケーキを食べて、プレゼントを贈る。
「ケーキ、プレゼント...」
呟いて、柚木はもう一つ溜息を吐いた。
時計の針は既に夜の7時を指している。今からプレゼントを買いに行くにしても店を何件も回っている時間はないし、そもそも山瀬の欲しいものなんて見当もつかない。
「どうしよう」
限られた時間の中で、自分にできることは何か必死に考える。
料理は得意だから、急いで材料を揃えればケーキを作ってる時間はあるかな。山瀬さん、ケーキは好きかな?何ケーキがいいんだろう...
明日は少し遅くなっちゃうけど、午後から山瀬さんのところに行って...でもそれだとやっぱりプレゼントまで準備してる時間はないし...
そもそも明日って山瀬さんは空いてるのかな?
メールして聞いてみよう...ってそれじゃあ誕生日を祝おうとしてるのバレちゃうか...
ん?でも別にサプライズってわけでもないし知られても問題ない?
あーもう。考えることがたくさんありすぎて、頭パンクしそうっ!
それに俺は、大好きな彼の誕生日も、好きな食べ物も、欲しい物も、何にも知らないんだ。
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