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出会いは突然
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”今週末、帰国します”
元彼からの2年ぶりのメールは、その一言だった。
自分が友人たちとは違うのだと気付いたのは中学生の頃だった。
ホームプロジェクターのあるクラスメイトの家で、家人がいない隙を狙って行われたAV鑑賞会。彼らがたまらないと言う大きな胸や柔らかそうな尻を見ても、大きな胸だ、柔らかそうな尻だ、以外の感想を持つことはできなかった。さらに、絶対に抜けるといって教えられた、女性があられのない体験談を書き連ねる掲示板や、無修正モノが見られるサイトなど、どれを見ても抜くどころか何も催すことさえなかった。
その代わりに俺は気付けば男を目で追っていた。体育で汗に濡れた引き締まった筋肉や、乾燥した日に唇を湿らすためにちろりと覗かせる舌にドキリとし、時には、催していた。
友人たちに彼女ができ始め、誰もが性に関する興味を高めていた。
彼女が欲しいという欲望とセックスがしたいという欲望はほぼ同一のもののようだった。
俺だってそれは例外ではなかった。例外ではなかったが、欲しいのは彼女ではなかった。そして、俺の欲しいものは恐ろしく手に入れるのが難しいものだとわかってもいた。
どうすることもできないまま、高校生になった。
中学生の頃よりも彼女のいる友人が増え、童貞卒業の言葉もちらほらと耳にするようになった。
その言葉に憧れを感じないことはないものの、初恋さえまだだった俺にとって、それはまったく無関係のことのように思えた。
そんな時だった。彼に出会ったのは。
「ありがとうございましたー」
毎朝同じ時間に、間食用のパンを買いに訪れるコンビニ。水色と白のストライプの制服がやけに似合うバイトの彼とは、毎朝顔を合わせていた。
その日買ったのは蒸しパンとハムサンドとミントのガム。小さなビニール袋に商品が詰められ、手渡される。
いつものごとく、朝から気持ちの良い笑顔で、溌剌とした声で。ちゃらちゃらしたようには見えないが、特別真面目そうにも見えない店員だ。
欠伸をかみ殺しながらコンビニを出て早速眠気覚ましにガムを噛もうと袋に手を突っ込む。ガサリと指先に紙の感触。
レシートは捨ててきた気がするんだけど、と疑問に思いながら紙片を取り出す。ノートかルーズリーフの切れ端だろう、薄く水色の罫線の引かれた小さな紙切れには、小野寺拓海という名前らしきものと、携帯のアドレスらしきものが書かれていた。
立ち止まってじっくり10秒ほど考える。
これは、一体。いや、どう考えてもあのコンビニ店員が入れたものだろう。
いつも爽やかな笑顔を振りまき、てきぱきとレジを打っている彼。よく日に焼けた肌に、傷んでいそうな茶色い髪。結構背が高くて体格も良い。大学生くらいだろうか。そこそこに顔は良い。
小野寺拓海、と小声で口にしてみる。胸が高鳴るのを感じた。と同時に、期待してはいけないと冷静に考える自分もいた。
きっと間違いだ。そうに決まってる。毎朝来る女の子に渡そうと思ったものが何かの手違いで俺の元に来てしまっただけなんだ。
それでもそれを捨てることはできなくて、個人情報だから簡単に捨てるわけには、なんて理由をこじつけてポケットに捻じ込んだ。
俺のこの判断は結局のところ正しかったといえる。
翌朝、ほんの少しの気まずさを隠していつものようにパンをレジカウンターに並べた俺に顔を寄せ、彼は言ったのだ。
「昨日、メール待ってたのに」
笑うとくしゃりと顔が崩れた。その崩れた笑顔が、好きだと思った。
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