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◇パズルANDダンジョン
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クロがゲームにハマった。
そう怒りながら妹の紅音が家に押しかけてきた。
その日、私も森崎さんも休みをいただき、家にこう太さんとご友人の春幸さんを招いて勉強を見て差し上げていた。
ちょっと休憩、ということでお茶を飲んでいた時だ。
「シロ!!!いる!?」
ドアをガンガン叩く音と何やら喚く声が聞こえてきて、何事だとドアを開けると、般若のような形相をした紅音と、泣きべそをかいて紅音にネクタイを掴まれた弟の鉄(クロガネ)が立っていた。
「静かになさい。それに、いつも言っているでしょう?連絡をしてから家に来なさいと」
「もう、クロのこと叱ってやって!!こいつね!!」
「今人が来ているのですからまた後で…」
「うわぁぁん!!!けんぞぉ!!助けてぇ!!!」
いきなり家にやってきた紅音を追い返そうとしている間に、クロは私たちの間をすり抜けて家の中に入っていってしまった。
慌てて二人で中に入ると、大きな巨体が森崎さんに抱きついて泣きじゃくっていた。
森崎さんは苦笑しながらそれを慰め、
「う…うえーん!!うえーん!!」
「春ちゃん、この人は間宮さんの弟だから怖くないよ。泣かないで」
クロに驚いて泣き出してしまった春幸さんを慰めるこう太さんがいて、部屋はおかしな雰囲気になっていた。
*
二人にもお茶をだして、春幸さんも泣き止ませるとようやく皆落ち着いてきた。
紅音に何があったんだ、と尋ねると紅音はキッと目を吊り上げて「これみてよ!!」と一枚の紙をテーブルに叩きつけた。
それは何やら明細書のようで。
「クレジットの明細書ですか…?」
「請求額…うぇ!?15万円!!!!」
「じゅうごまん!!」
「ひえー…」
森崎さん達は目を丸くして驚いた。
クレジット利用の内訳…と言っても、一つしかない。
「クロ、ゲームなんかの課金のために一ヶ月15万も使ったのよ!!!!」
「だってイベントがあったんだよぉ」
「うるさい!!馬鹿じゃないのアンタ!!!」
紅音がクロの頭をビシビシと叩き始めたので慌てて止めに入る。
弟のクロはゲームと言ったものが好きで、給料の殆どをそういったものに充ててしまう。
確かにクロが頂いた給料をどう使おうが関係ないとはいえ、少々度が過ぎる時は注意していた。
私が前の会社にいた頃からそれは変わらず、キツく注意しては「気をつけるよぉ」と言われていたが、ほとぼりが冷めてしまえばすぐに元に戻ってしまっていた。
「紅音怒るなよぉ。もうしないよぉ」
「誰が信じられるっていうのよ!!!」
「紅音だってブランド物買いあさってるじゃんか!!」
「アタシのは形に残るけどアンタのなんてただのデータじゃない!!」
「騒ぐなら出て行ってもらいますよ。クロ、ゲームをやるなとは言いませんが、程々というものが…」
紅音と二人で説教を始めると、またもクロは「うわぁん!」と森崎さんへ抱きついた。
そうやって自分に優しい人に逃げ込むのは良くないと言っていると、「まぁまぁ」となだめられた。
「クロくんがそんな課金してやってるゲームって何?」
「今CMでもやってるやつなんだけど、スマホアプリの『パズルANDダンジョン』ってやつ」
「あ!それボクもやってるよ!!」
「ぼくも、父ちゃんのスマホでやってるよ」
タイトルを出した途端、こう太さんと春幸さんの目が輝いた。
二人ともクロを挟むように隣に座ると、「どこまで進んだ?」「パーティ見せて」とせがんだ。
味方ができて嬉しいのか、クロはご機嫌な様子で「おう!」と言いながらスーツのポケットからタブレットを取り出してゲームを始める。
今はそれどころじゃありません、と叱りつけようとも思ったけれどこう太さんと春幸さんが楽しそうに画面を覗き込んでいるのを見ているとそれもできなかった。
紅音はそんな様子をみて「男ってなんでみんなこうなの」と呆れたため息をついた。
「クロちゃん、今レベルどれくらい?」
「おれはねー、こないだやっと168になったくらい」
「じゃあ、ボクの方が上だね!ボクは222!」
「いいなー。ぼく、とうちゃんにスマホ借りなきゃだから、まだ80くらいだよぉ…」
「でもね、ボクのお隣の大学生のお兄ちゃんはレベル400超えてるからパーティとかすごいんだ」
「聖斗のことだろ?400かーアイツすげぇなー」
「森崎さんはこのゲームやってないんですか?」
「ん?うん、俺もやってるよ」
森崎さんもゲームがお好きな方だ。やはり給料をゲームに使ったりしているが、クロほどではない。
クロには森崎さんを見習ってもらおう、口を開こうとした時だ。
「えーそうなんですか!レベルどれくらいですか?」
「765になったばっかりだよ」
何でもないように笑顔で言った森崎さんの言葉に、思わずその場にいた全員固まってしまった。
「クロくん、課金してる割には大したことないね」
*
その後、何故こんなにゲームに金をかけるのか具体的に聞くことにした。
「ガチャも回すけどぉ、コンティニューにコイン使うじゃん?それ買うのにクレジット使うんだ」
私にはシステムがよくわからないが、ガチャガチャやコンティニューにコインのようなものを使うらしく、それはリアルマネーで買うことができるそうだ。
パズルゲームとRPGのようなこのゲームは、ダンジョンというものに潜ってパズルを解いては先に進むというようなゲームで、クロはダンジョンの途中でゲームオーバーになるのが嫌なばかりに、そのコインをクレジットで際限なく買っていると白状した。
「でも、まだこんな初歩ダンジョンでそんなにコンティニューする?」
「クロちゃん、ちょっと試しにやってみてよ」
「いいよー」
そう言ってゲームを始めるのだけれど。
「やべ、失敗した」「あ、間違った」「ダメだ、やり直し!」「Oh!!」
そう言っては湯水のようにコインが消えていった。
コンティニューのために消えていったコインが五つ以上に達した時、紅音が絶叫しながら「いい加減にしなさいよぉ!!」とその手からタブレットを叩き落とした。
「このヘタクソ!!!アプリ削除してあげるから寄越しなさい!!!」
「うわぁん!やめろよぉ!!」
「紅音ちゃん落ち着いて!!」
「クロも落ち着きなさい」
「う…うわぁーん!!」
「春ちゃん泣かないでよぉ」
また部屋の中が騒がしくなり、混沌とし始める。
せっかくの休みなのに、と心の中でため息をついたのは言うまでもない。
*
「弟が困った子なのはどこも一緒ですね」
私の話を聞いて、七瀬さんはクスクス笑った。
アトリエのほうに差し入れを持ってきてくださった時に、この間の休日にあったことをつい漏らしてしまった。
結局あの後何とか荒れた二人をなだめて家に帰し、泣きじゃくる春幸さんとこう太さんを家に送って言って一日が終わってしまった。
ボンヤリと思い返していると、「うちの弟も、一時期そのゲーム課金するくらいハマってたんですよ」と七瀬さんが困った顔をした。
「弟さんほどじゃないんですけど、三万とか四万とか一ヶ月に使っちゃって。バイト代を好きに使うのは良いんですけど、もう夢中で…。僕がお弁当を作れない時はお昼代を渡しているんですけど、それもゲームに使っちゃってお昼抜きとか…」
「それは良くないですね」
「だから僕も考えたんです。課金を落ち着かせるにはどうしたら良いんだろう、って」
「何か手を打たれたのですか?」
「僕も課金制を導入しまして」
「…………はい?」
七瀬さん曰く。
『一日一回、ログインボーナスでハグは無料です。だけど、キスは一回1000円、エッチなことは一回5000円です。どうぞ課金してください』
『まさかの搾取!!!!!』
七瀬さんは聖斗さんが自分に触れようとする度に金銭を徴収し、ゲームに使う金額を減らそうとしたそうだ。
実際の所、聖斗さんはお金を払ったりはしなかったそうだが、少しは懲りたみたいで、課金を全くしないということは無くなったけれど、身の丈にあった使い方をして楽しんでいるみたいだ。
「僕が言うとあんまり洒落にならないんですが」そうはにかむ七瀬さんを見て、なんとも言えない気持ちになる。
そんな話を森崎さんにした所、紅音とクロにも伝わり。
「シロ助けてぇ!!紅音がさぁ、飯作るの一回5万、洗濯するの一回3万、膝枕10万とか言いだしたよぉ!!おれ給料なくなっちまうよぉ!!」
「いや、いきなりそれは暴利すぎます…」
「待って、膝枕10万って、クロくん紅音ちゃんに膝枕してもらってるの!?」
紅音の無茶な提案に、泣き喚きながらまたクロが家にやってきた。
おいおい泣きじゃくるクロの背中をさすりながら森崎さんがボソリと、
「でも、俺も銀ちゃんが膝枕してくれるなら言い値で払うかもしれないなぁ」
と言っていたのは聞かないことにして(して欲しそうにこっちを見ていたのに気づかないふりをして)、紅音に迎えにくるように電話をかけた。
早くクロを引き取ってもらい、森崎さんに膝枕をするために。
(fin)
*************
自分の好きなゲームを題材にした小話でしたw
友達荘の元ネタゲームは、リア友よりもハゲ達ばっかり作っていました。ボッチ乙。
農業系ゲームは一時期狂ったようにやっていましたね。収穫が楽しいし、好きな子を落とすのに必死になってました。
最後のパズルの奴は、ホントは間宮くんがパズルやるシーンも入れたかったのですが、グダグダするんで切っちゃいました。
補足で、紅音とクロは二人で会社の社宅に住んでいます。
実は仲良しの姉弟だったりしますw
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