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日本史の授業
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青木くん。
はい。
浮田くん。
はい。
大野くん。
はい。
始業のチャイムがなったばかりでまだザワザワしている教室で、俺は教卓の前で生徒の名前を呼んでいく。
名前を呼ばれた生徒はまた、携帯を弄ったり横の子と話したり。
あぁ、教師も五年目だってのに、ナメられてんなあ、俺。
まあ強く言えない性格が悪いんだけど。
そんな性格の割に、メンタルはけっこー強め。
気を取り直して、次の名前を呼ぶ。
「鹿島くん」
しーん。
「鹿島くん?」
しーん。
キョロキョロと教室を見渡す。
あれ? 鹿島、いない。てか、鹿島の席に、他のヤツが座ってる。
そうだ、昨日放課後のLHRで席替えさせたんだった。
「鹿島来てた?」
教卓の一番前に座る生徒に問う。
「来てますよ。あそこ」
生徒の指差す方を見ると。
一番後ろの窓際の席で、俯せている鹿島の明るい茶髪。
斜め前に座る柔道部のガタイの良いヤツの後ろに上手く隠れて寝ていた。
……またか。
はあ、とため息をつき、教団を降り、狭い机の間を歩く。
目的の人物の前に立ち、俺は肩を叩く。
「鹿島」
……反応なし。
どんだけ爆睡してんだよ。
「かーしーまー」
少し強めに肩を揺さぶる。
するとそいつは少し身じろぎ、そしてまた静止。
ったく。
「鹿島雄也! 起きろ!」
パコン、と良い音を立てる。
頭を叩かれた鹿島は、また身じろぎ、ぐいと背伸びをした。
「いたい……」
大口を開け欠伸をすると、ぼけーっとしたまま俺を見上げる。
「……あれ? 千聖(ちひろ)ちゃんじゃん。なんでいんの?」
「なんでいるって? 授業だからに決まってんだろ」
またこいつは何を。まだ寝ぼけてやがる。
「え、もうそんな時間なの? 今何時間目?」
ポケットをガサゴソすると、携帯を取り出す。
教師の前で堂々としすぎ。
「四時間目。いつから寝てたんだよ」
「うわ、もう11時じゃん。んー? いつからだ? なあ、俺いつから寝てた?」
隣の机をトントンと叩き、問う鹿島。
女の子は、朝からだと思う、と控えめに答えた。
鹿島雄也、2年5組。
のーてんきで明るくて元気なヤツ。
他より少し破天荒なため、大人しめの生徒からは少しビビられてる。
不良、というほど悪ぶってるわけじゃないから、大抵のやつとは仲良いけど。
ほら、そーゆームードメーカー的な存在を苦手とする人種もいるじゃん?
学生時代の俺もそう。だから、隣の女生徒も畏まり気味。
「まじで? どーりで腹減ってるわけだ」
「鹿島……」
「なぁに? 千聖ちゃん」
ふわっと笑う顔に、心臓が鳴る。
そう、鹿島は顔が良い。
日サロに行ってるらしい焦げた肌に、程よくついた筋肉。の割に足腰は細くて、変な色気もある。
黙ってるとクールなのに、笑ったときに目尻にできる皺は、幼い。
それにムードメーカーときたら、そりゃあモテ要素しかない。
男の俺でも、かっこいいなぁ、と思う。
……て、そうじゃなくて。
「千聖ちゃんって呼ぶな。それに、昼飯の前に日本史の授業の準備してくれ」
ちひろちゃん、と、鹿島は俺を呼ぶ。
確かに俺は千聖。堤千聖、教師五年目の27歳。
正確には、まだ誕生日が来てないから、26。
アラサーだよ? その俺を、十歳も年下の高校生に、ちゃん付け。
ナメられてるにも程がある。
鹿島がそう呼ぶせいで、他の生徒までもが、千聖ちゃん呼び。
親しみあって嫌いじゃないけど、よくよく考えてみれば、教師の面目丸つぶれじゃん?
「だって、千聖ちゃんは千聖ちゃんつて感じじゃね? そこらの女子より可愛いし」
「うわ、かっしーひど」
「それあたしたちの前で言う?」
「確かに千聖ちゃん可愛いけどさー」
鹿島の発言に、こちらに視線を集めていた女子たちからのブーイング。
「いや、だって事実だし」
と、鹿島はケロリと答える。
「てか千聖ちゃん肌綺麗すぎるよね」
「色白すぎるし」
「そーいえばさ、こないだの体育祭のとき千聖ちゃんの足見た? ムダ毛ぜろ!」
「すね毛くらいあるっつの!」
好き勝手盛り上がる生徒に、思わずツッコんじゃう俺。
いや、確かに色も白いし、思春期ですら肌荒れやニキビなんてできたことないよ?
すね毛も人より薄いし、脇もしかり。
けど、無いことはない。男の勲章、てかんじだから、意外とコンプレックスなんだけど。
女子からすれば羨ましい限りなんだろうけど。
そうこうしてる間に、授業時間が無駄になっていることに気づく。
「ほら、もう授業はじめるよ。期末近いんだから。鹿島も、教科書出して」
ポン、と背中を叩いて促す。
真面目モードを取り返した俺に、みんなもガタガタと椅子を動かし、授業モードに切り替え。
うんうん、良い子達。
「千聖ちゃん。教科書わすれた」
うん、鹿島を除いては、ね。
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