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トリカイの冬休み(9)
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短い冬休みが終わり、何時もの日常と学校が始まった。紅葉と神社で恋愛祈願もしたし、友達と遊べたし、それなりに充実した休みになった。4月になったら受験生になるのか…月日の経つのは早い。
「あ、加賀先輩だ。そろそろ登校する時間だと思ってた。」
また、懲りもせずに窓から身を乗り出してる友達。俺が加賀さんと知り合いだとバレてから、奴はよく俺に加賀さんの事を聞いてくる。でも俺もよく知らねえんだけど、
「ほら見てみ。手振ってみろって、」
「ヤダ。」
俺は窓の外を見ない。彼の隣には桜井さんと能戸さんがいるんだろう。
「あんまり身を乗り出したら落ちるぞ、」
「ははっ!んなヘマはしねえよ。」
って言って振り向いた奴は、ちゃんと履かずに踵を潰してスリッパ的に引っ掛けただけの上靴で、…滑った。
「っ、」
目の前で浮く体、慌てて手を伸ばして上着を掴んで引き留める俺。冬休みの間に、床にワックス掛けしたんじゃなかったか?嘘みたいにスローモーションで奴が縋るように腕を伸ばし、指先で俺の眼鏡を弾いたのが見えた。
カシャン、
音を立てて床に落ちる眼鏡、俺の肩をグッと掴んでる手、
ダンッ、
窓の外に落ちずに済んだ友達の踵が勢いづいて派手に着地した、
「あっ!」
「え?」
そこは、俺の眼鏡の上だった。
「ごめんな鳥海!授業のノートは全部コピーして明日渡すな。でも本当にいいのか…眼鏡、ちゃんと弁償するのに。」
「うん。家にコンタクト有るしさ、もう度も合わなくなってたし買い換えるつもりのヤツだったから。」
「ほんっとごめん。今日は部活休んで家まで送るから、」
「それも良いって。家、反対方向じゃん。ほら、さっさと着替えに行かねえと部活遅れるだろ。」
「でもさぁ、」
心配と申し訳ない思いの混ざった声。こいつは悪い奴じゃない、ちょっと阿保なだけだ。別に腹も立ってない…というか、あんまり自由に動けない俺の代わりに購買行って昼飯奢ってくれて、トイレに付き合ってくれたりと色々世話をしてくれた。もう充分。
「大丈夫だって、ほら行け。」
「うん、ありがと。なんかあったら電話しろよ。」
「うん。」
奴が去って俺も席を立つ。鞄を肩にかけて人の少なくなった教室を出る、ぼやけた人の輪郭を避け、ふらふらと魔の階段へ来た。さあ、ここからが勝負…俺は無事に降り切ることが出来るのか。
手摺につかまりそろりと片足を下ろす、よし次。こうやって一歩一歩を確実に下ろして行けば大丈夫。いつもの何倍もかかるけどな。
「あれ、トリカイ。手摺にしがみついてどうしたんだ足でも痛めてんのか?」
階段の下の方から話しかけられた。
「桜井さん、」
この階段は下駄箱の近くに出るから、通りがかりに声を掛けてくれたんだろう。目を細めてぼやけた人の形を確認する…2人。桜井さんとたぶん加賀さん。
「あれ、眼鏡は?」
「壊れてしまって、それで手摺に頼ってるんです。」
タンタンタンと、軽快な足音で俺の側に来た桜井さんが手摺の無い方の腕に腕を絡める。
「大丈夫か。落ちないようにオレが腕握っとくから、」
「え、あの…大丈夫ですよ。俺1人でも降りれますよ。」
なんか殺気!殺気が!下から、たぶん加賀さんみたいな人影から!しかも近付いてきたよ!
「遠慮すんなって。階段から落ちたら危ねぇよ。」
いや、どうかなあ。階段から落ちた方が良い時もあると思うよ?今とか。
「真琴、俺が支えるから手を離せ。」
「京平は鞄を持ってやったらいいだろ?」
桜井さんの不思議そうな声。
「いやいや、どっちもしなくていいっす。」
加賀さんがしぶしぶといった感じで俺の鞄を持つ、桜井さんは俺に声を掛けながらゆっくり降りる。…俺の言葉は無視っすか。
「あの、有難うございました。階段降りたし、もう大丈夫ですから、」
「なに言ってるんだ家まで送るって。そんなふらふらしてたら危ねえし。」
「いやいや本当に大丈夫です。それじゃあ桜井さんの帰りが遅くなるし、今日は楓が迎えに来てるでしょ。」
昨日は紅葉だったから今日は楓の番。桜井さんと一緒に帰るの楽しみにしてる筈だろ。だから俺は邪魔したくない。
「なあトリカイの靴箱どこ?」
「桜井さん…俺の話を聞いて?」
「鳥海さっさと答えろ。もうしょうがないから真琴の気がすむまで付き合ってやれ、」
そう言った加賀さんが溜め息吐いた。
「あのお、2年の靴箱まで案内します。鳥海君の靴箱ですよね。」
「私達もちょうど靴箱のところへ行くから、」
いつの間にか女子生徒が2人、加賀さんの隣にいる。顔はよく分かんないけど、たぶん2年の子なんだろな。さすがにモテるな加賀さん。
「じゃあ鳥海連れて行ってくれ。今、ほとんど前が見えてねえから、出来れば靴箱を教えてやって。鳥海、俺達が靴取って来るまで扉んところで待ってろ。」
桜井さんの腕が離れる、加賀さんは俺の荷物を持ったまま去った。
「…じゃあ鳥海君行こう、」
「そういや眼鏡無いね、」
加賀さんがついて来ないのが不満みたいだけど、女子生徒が俺の歩調に合わせてゆっくり進む。加賀さんのモテ力で、なんとか靴を履いて3年の靴箱から移動してきた2人と扉の前で合流した。
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