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Sieben_2
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部屋を飛び出し廊下を駆け出し長い階段も転がるように走り降りて蓮は外へと飛び出した
なんとなくルイスは部屋ではなく外に居るような
そんな気がしてならない
蓮は迷いなく庭を駆け抜けると記憶を辿ってあの温室庭園へと向かった
しかしあの日ぼんやりとしていた蓮はもともと広い城の庭を全て把握していなかった上に入り組んでいたあの場所をはっきりと覚えていない
「どこだったっけ……」
辺りをくるくると見渡して見るもののどこかしこも見たことがあるようなそうではないような
はっきりと違うとも分からず広い敷地内をあちらこちらと走り回った
元々体力だけは人並み以上にはある蓮だがこの広すぎる城をくまなく探すには少し気持ちが重くなる
そんな時ふと思い出した事があった
確か飼い主様は耳が良かったって聞いたことがあるな…
だったら呼べばわかるのか?
前に一度聞いたことのあるその話を思い出して蓮は寝静まる城に邪魔にならない程度の声でルイスの名を呼んだ
「っ……飼い主様っ…!……あの…話が…したくて…」
周りから見たらきっと今の蓮は滑稽だろう
夜の闇に包まれ
綺麗な淡く光を放つ月に照らされた
豊かな緑あふれる庭を走り回り
一人で名を呼び話を続ける
これが普通の人間の世界でなら
きっと今頃蓮は頭のおかしくなったと言われるだろうが
それでも今蓮が生きている世界は
人間の普通を超えた世界
きっとこの声もルイスへと聞こえているんだと、何故なのか蓮は確信に近い何かを感じていた
そして蓮の声が耳に届いていながら
ルイスがわざと無視をしているんだということにも
蓮は気づいていながらも
それでもルイスの名を呼び続け走り回った
「ハァッ…っ…ハァハァ……飼い主様……俺、何かしましたか……俺の事嫌いになりましたか……」
どれだけ探し回ったのか
流石の蓮も肩を上下に動かしぜーはーぜーはーと苦しげに息を繰り返す
しかし一番蓮の負担になっていることは
体力的な事よりも精神的な方が大きい
どうしてルイスがいきなり避けだしたのか
やっぱりあの毒を盛られた日
自らルイスのものを咥え混んだことに浅ましいと軽蔑されてしまったのか
いろんな不安が溢れかえる
そしてそれら一つ一つすべてがそうであってもおかしくは無いような内容で
一層の事蓮は胸が苦しく締め付けられた
「…っ…嫌いになったのなら…そうだと…俺の目を見て言ってください……」
走るのをやめてその場で立ち尽くした蓮が自分の足元を見下ろしながらポツリと呟く
「…あなたに存在を無視される事の方が…俺は嫌われる事よりも悲しくて堪りません……俺はここにいるのにまるで居ないように接されたら………俺は……」
ぐっと拳をつくり握り締める
まだルイスへの気持ちを認めたくなくて気持ちを誤魔化していた時
素直になる事が怖くて怯えて逃げていたとき
その時の時間は酷く悲しく苦しいものだった
好きな人にまるでこの世に存在していないかのように過ごされるということは
例え命がそこに在ったとしても
無いものとされる事になるんだと
ルイスの世界に自分と言う命は居ないんだと
その事がどれほど悲しくて寂しくて苦しい事なのか蓮は痛いほど知っていた
「…………ルイス様」
本当なら呼んではならない名前
奴隷の分際で飼い主の名前を呼ぶだなんて事許されることではない
そんなことは重々承知だったが
それでも今の蓮にとって
唯一ルイスを身近に感じられるのは
ルイス、と言うなのたった三文字の名前と音だった
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