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薄紅色が一本道に覆いかぶさるように、両側に植えられた桜の木が花をつけている。
枝が重そうな、という言い回しがぴったりだ、と、家に続く駅からの道を見通した。
街灯に照らされ、発光するかのように咲き誇っている光景は夢のようで、夢の、ようで、かなり先に、一点の黒い背中を、見つけた。
自分と同じ、くたびれた背中。
薄紅色の中、見つけてしまったその背中は、見間違えようがない、あの頃ずっと見つめてた背中だ。
こんなところで。
見間違いだと言い聞かせようとして、そんなはずがないのは自分が一番わかっている。
呼び止める?
呼び止めるには、距離が遠すぎる。
こんな真夜中に、住宅街で大声を上げるなどできない。
駆けていって、肩に手を置く?
それほど親しくもなかった自分がそれをして、相手がどう思うだろう?
歩幅を大きくして、少しでも近づこうと、その背を凝視したまま、追いかける。
と、風が吹いた。
風が吹いて、桜の枝々が一斉に揺れ、ピンク色の吹雪を起こした。
前を歩く背中が立ち止まり、その光景に見とれるように空を見上げ、振り向いた。
目が、合った。
目が合って、その眼が、撓む。
懐かしい声と笑顔で、名前を呼ばれた。
「佐伯!」
と。
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