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四季折の羽:パロディ【共に生きる】
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「飯、出来たぞ。」
いい匂いと共に、後ろから声が聞こえる。
鳥達は空高く飛び、振り向くと猟師がこちらへ手を伸ばしていた。
「綺麗な声だな。」
「……き、聴いてたのかよ…」
クスリと笑う猟師の手を取り、左足をひょこひょこと引きずりながら側へと寄ると、猟師の大きな手が背中に回った。
「聴かせてくれてるんだと思ったんだけどなぁ。」
「〜〜ッ……なわけ、ねぇだろ…」
抱き締められると、頬がカッと熱くなる。
歌の続き聴かせて?と耳元で囁かれドキリとする。
「も、もう歌わねえ…」
「なんで?」
「うるさいっ、それより飯食べたい!」
「ふふっ、はいはい。」
火照る頬を撫でられ、猟師はにこりと笑った。
手を引かれ家の中へと入る。
囲炉裏を囲い、猟師と一緒にご飯を食べる。
炒めた山菜と、味噌汁と、焼き魚。
決して豪華な食事じゃなかったけど、猟師が作る飯はどれも暖かくて美味しかった。
「美味い?」
「…ふ、普通……」
「ふふっ。そっか。」
箸の先を咥え、茶碗を持つ手に力が入る。
ありがとう。ってその言葉さえ言えば俺はここから去るつもりだったのに。
たった一言、その言葉を言えないまま、三年も経ってしまった。
貧しいこの村の、貧しい家に住む一人の猟師。
飯まで与えてくれて、暖かい寝床を与えてくれて。
俺はこいつに甘えてばかりいる。
「新?」
「……っ」
優しい声で、名前を呼ばれる。
時が経って、俺はもう一つ願ってしまった。
こいつのそばに居ると、もうどこにも行きたくないという思いが溢れて止まらない。
暖かくて、優しいこいつの事を俺はいつしか愛しいと思う様になってしまった。
「…成海……」
「ん?」
成海……猟師の名前。
呼ぶだけで恥ずかしくて箸の先をぐっと噛んでしまう。
「追い出すなら……追い出していい…から」
「追い出す?」
「……俺、がいると……お前の分の飯、少なくなる……から…」
せめて、俺が女だったら。
生まれたこの思いを、お前に告げる事が出来たのだろうか。
「迷惑なら……俺、すぐ出て行くから…」
女だったら。お前と肌を重ねる事も出来たのだろうか。
「追い出さないよ。迷惑だなんて思った事ないよ。」
「………」
「新。こっちに来て。」
「…………」
成海は箸を置いて手招きをした。
足を引きずりながら、成海の胸へとゆっくり擦り寄る。
パキ、と囲炉裏から音が聞こえた瞬間、成海が俺を抱き締めてくれた。
「こんな事思う俺は少しおかしいかもしれないけど、新。俺はお前が好きだよ。」
「………」
「俺はずっと一人で生きてきたから、お前がここへ来てくれて本当に嬉しいよ。お前が嫌じゃないなら、ずっとここに居てくれないか?」
「………」
「またあの綺麗な歌声も聴かせてくれ。」
「……………」
優しく抱き締められ、優しく笑うこいつの言葉が酷く心に響いてくる。
囲炉裏の火で火照る顔を、成海の大きな袖の陰に隠した。
俺が女じゃなくても、お前は俺をそばに置いてくれるのか?……俺は我儘で嫌な奴なのに…それでもお前は俺を好きで居てくれるのか?…
いつか……いつか……
「……綺麗な声じゃ…なくなっても…?…」
ぽつりと呟くと、成海は微笑んでまた強く抱き締めてくれた。
「当たり前だろ。」
「〜〜ッ…」
その言葉を聞くと、嬉しくて、嬉しくて。
頬に大きな手が添えられ上を見上げると、成海の綺麗な唇が俺の唇と重なった。
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