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四季折の羽:パロディ【鈴の音】
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この年の夏はとても蒸し暑く、炎天と地を照らす太陽の光は田畑の作物を容赦無く枯らしていった。
植えても、水をやっても土は乾き、夏に降る雨で作物の種はほとんど流され駄目になっていった。
ぎゅるるる、と腹の虫が鳴った。
ここ最近、雨のせいで土を含んだ川は溢れ返り、魚さえろくに獲れなくなっていた。
「ゴホ…ゴホ…っ」
「………」
相変わらず、成海の咳は止まらなかった。
食事もろくに食べてなくて、1日布団の上でぐったりとなってる事が多くなった。
「お前……医者に診てもらえよ…」
背に手を回し、ゆっくりと体を起こしてやり、茶碗に注いだわずかな水を成海の口元へ運ぶ。
「大丈夫だって。暑さで少しやられてるだけだから。」
「………」
こいつは、いつになってもそればかり言って医者に診てもらおうとはしなかった。
「そうだ。お前に渡したいものがあるんだ…。」
「?」
ふらふらと、よろけながら立ち上がったこいつは、部屋の隅に置いてあった小さな箪笥の中から何かを取り出して俺に差し出して来た。
白い椿の花と小さな鈴が付いているとても綺麗な装飾物だった。
「……な、なにこれ?」
「簪。」
「かんざし?」
なんだそれ。と首を傾げると、成海はふふ、と笑って俺の髪を触ってきた。
「髪が短くても付けれるやつ。お前の綺麗な金の髪に絶対似合うと思って。」
「?…?…」
左耳に横髪を掛けられ、耳の上にスッ、と簪を刺される。
「ほら。似合ってる。」
成海が手を離して笑った時、リン、と簪から鈴の音が鳴った。
綺麗だ。と言われて、恥ずかしくてそっぽを向いてしまう。
「馬鹿かよ……こんなもん買う金あるなら薬でも買えよ…」
「だから…薬なんか要らないよ。大丈夫だって。」
「………」
優しく、暖かい手で髪を撫でられる。
その度に、鈴の音が静かに鳴った。
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