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四季折の羽:パロディ【都への一本道】
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夏の日差しが陰る事は無かった。
喜び鳴く蝉の声と、苦しそうに咳き込む成海の声が、あばら家に止めどなく響いた。
草履に足を通すと、リン、と髪から鈴の音が鳴る。
家にある金目の物を手当たり次第漁って、大きな風呂敷に包んであばら家を出る。
家から出ると、あいつがこっちを見てる気がしてもう一度家の方へ振り向いた。
そして、ゆっくりと歩き出す。
左足を引きずりながら、ゆっくり、ゆっくり歩き出す。
山を降りれば都がある。
ここよりも裕福な暮らしをしてる貴族達がいる。
病気を治してくれる医者がいる。
食べ物だっていっぱい売ってる。
絶対、絶対死なせたりなんかしない。
医者を呼んで、診てもらって、薬を飲んで、沢山寝て、沢山食べたらあいつは元気になる。
そしたらちゃんと俺が安心出来るくらいの大丈夫をくれる。
大丈夫、大丈夫、大丈夫だ。
俺を置いて死なせたりなんかしない。絶対に、絶対に。
「……くっ…、」
山道は、険しかった。
木漏れ日さえ脳天を容赦無く照らし続け、都まで給水無しは想像以上に辛かった。
でも、そんなのどうだっていいんだ。
都に辿り着きさえすれば、医者を呼べさえすれば、あいつを助ける事が出来る。
一歩、また一歩と足を進めると、その度にリン、リン、と簪から音が鳴る。
幸せな音だ。あいつが側に居てくれてる気がする優しい音だ。
「……吹けよ…吹けよ…春の風…」
まだあいつに最後まで聴かせてない歌を口ずさみながら、都までの長い一本道を一人で歩いた。
何度も簪に触れて、何度も来た道を振り返って、それでも前へと歩き進んだ。
肩に背負った風呂敷の中には、あいつと一緒に育てた芋や野菜がわずかだけど入ってる。あいつが三年前、俺の為に都で買って来てくれたあいつとお揃いの茶碗も、箸も、あいつが毎日、日が沈むまで編んでた綺麗な草履や、二年前、俺に、ってくれた綺麗な着物も、全部背負って都に向かう。
貧しい暮らししてたくせに、あいつは都に行けば俺に贈る物ばかり買って帰って来た。
貧しいくせに、自分の分の飯作るのでいっぱいいっぱいだったくせに、それなのに、あいつは一度も俺を追い出そうとはしなかった。
……馬鹿だ…大馬鹿だ……俺さえ追い出してたら、あいつが体壊す事は無かったかもしれねえんだ。こんな簪……俺さえいなければ、お前は迷いなく薬を買ったはずだ。
馬鹿だ……本当に大馬鹿だ…俺は、あいつに与えられてばかりで…何もあいつに恩返し出来てなかった…。
ジャリ、と地面を踏む。
顔を上げると、賑やかな都が目の前に広がっている。
「…医者……」
死なせない。死んだら呪ってやる。死んだら絶対許さない。
俺はお前に、まだ言ってない事が沢山あるんだ。
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