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四季折の羽:パロディ【嘘と嘘】
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日が暮れる頃、ボロボロになって俺は家に辿り着いた。
途中で何度転んでも、木の枝に着物を裂かれても、気にせず走り続けた。
「成海‼︎」
寂れた家に着いて、草履を脱ぎ捨てあいつが待つ部屋に飛び込む。
「……新…」
布団の上で横になるあいつが、俺の方を見て名前を呼んだ。
「どこ…行ってたんだよ…」
布団から手を伸ばしてクスリと成海は笑った。
「成海‼︎もう大丈夫だ‼︎薬だ‼︎これ飲めばお前すぐ元気になるぞ‼︎」
伸ばされた手を取り、枕元に顔を近づけて精一杯笑ってみせた。
咄嗟に俺は、嘘をついてしまった。
だけど、成海は「そうか。ありがとう。」と言って笑ってくれた。
「今水持ってきてやるから‼︎」
早く薬を飲ませてやろうと、立ち上がろうとしたら、手首を掴まれ引き止められた。
「お、おい離せよ…」
「……なんでこんな傷だらけなの?…」
「…え……」
握られた手は、あの男に踏み付けられた手。
「頬も、赤くなってる」
「こ、これは転んだんだ…」
心配そうに頬を撫でられ、咄嗟に成海の手を払ってしまった。
言えるわけない。都であった事なんて。
言えばきっともう都には行かしてもらえない。
そしたら薬だって貰いに行けなくなる……
「新……俺は大丈夫だから。」
「………」
そして、薬が貰えなくなればこいつはもっと弱っていく。
大丈夫だって何度も俺に嘘を付くから、俺だって、嘘を付くんだ。
「病人が……治ってから言え…」
素っ気なく返し、俺は外に出て井戸から水を汲み上げ、あいつの茶碗に薬を入れ水と混ぜた。
薬を飲まして、暫くすると咳は一時的だけど治ってた気がする。
たった3つの限られた薬は、時間を置いてあいつに飲ませたらその日であっという間に尽きてしまった。
顔色は、悪くなる一方で。本当に薬は気休め程度にしかならなかった。
「……どこ行くの?」
「…畑。」
そして、俺はそう嘘を言って、何度も都に足を運ぶ様になった。
気休めの薬でも、俺にはそれしか縋れる物がない。
何もしないのは、嫌なんだ。
何も出来ないのは、嫌なんだ。
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