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四季折の羽:パロディ【嘘つき】
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「は、っ、はっ、はっ」
枯れ木や紅葉で溢れる山道を、無我夢中で走った。
都からの帰りだ。今日はちゃんと売れた。買ってもらえた。
「はっ、はっ、…へへっ…」
そして、薬も買えた。やっとだ。やっと一つあいつの為に何かする事が出来る。
助けれる。きっと助けれる。
治らないわけないだろ。治るんだよあいつは。
俺が自分で稼いだ金で買った薬だぞ。治らないわけないだろ。
「成海‼︎」
勢いよく戸を開き、買ったばかりの薬を持ってあいつが寝てる部屋に飛び込んだ。
「………お、おい…」
いつもなら、おかえり。って言ってくれるはずなのに
「おい‼︎」
成海は、血まみれになって布団の上でぐったりと倒れ込んでいた。
駆け寄って体を起こしてやると、苦しそうに咳き込み始める。
その度にゴボッ、と勢いよくこいつの口から血が吐き出された。
「薬だぞ‼︎もう大丈夫だぞ‼︎」
「…………」
「おい…俺が買った薬なんだぞ…寝てたら飲めねえだろが…」
「…………」
「おい…………」
返事は無かった。あの恐ろしい音が、こいつの胸からヒュー、ヒュー、と聞こえてくるだけで、成海が目を開く事は無かった。
「……おい…返事しろよ……起きろよ…」
口から流れる血を指先で拭うと、ピクリとこいつの瞼が動いた。
でも、目が開く事は無く、その後も何度か成海は咳き込み血を吐いた。
急いで水を汲みに行き、薬を溶かして口移しで飲ませても、水を飲む力さえこいつにはもう残って無かった。
「……」
返事が無い成海の着物を脱がせて、血まみれになった体を綺麗に拭いた。
薬少しでも体の中に入ったなら、きっとその内効果出てこいつは目を覚ます。
胸から聞こえる変な音もその内聞こえなくなって、正常な心臓の音と、吐息が聞こえてくるはずだ。
「…今日な……初めて俺の作った生地が売れたんだぞ…お前に内緒でこっそり作ってたんだ……」
「…………」
「あとな……都で会った医者が…もっとちゃんとした薬くれるって言ってくれたんだ……咳止めなんかじゃないぞ…お前の病気を治せるかもしれねえって…あの医者言ってたんだ…」
酷いのは俺だった。嘘つきなのは俺だった。
あの医者はそんな事微塵も言って無かった。
咳止めの薬も恐らくもう効かないって言われた。
「…治るんだぞ……もう少しで…お前は元気になるんだぞ…」
「……………」
返事がないまま、俺はこいつに嘘ばっかついてる。
目を覚まさない成海に布団を掛け、別の部屋へと入った。
翼は、もうほとんど骨しか残ってない。
無理に引き抜いてを繰り返していたから、新しい羽も生えてこなくなっていた。抜いた場所から化膿が始まり、少し翼に力を入れただけでズキズキと痛んだ。
でも、もう少しなんだ。
あと少しこの機を踏めば、あと少し羽を使えば、今織ってる生地が完成する。
今までで一番綺麗に作れてるんだ。
「……そしたら…また…これが売れて…薬が買える…」
ズキズキと痛む翼と心臓が悲鳴を上げても、それでも俺は機を織り続けた。
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