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神様は残酷
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朝、紫陽さんがリビングで倒れそうになっているのを見つけた
慌てて体を支え、ソファーに座らせ薬を飲ませて傍で様子を見ていた
明らかに容態は悪くなっているのがわかるから辛い
病気なんて嘘だと何度自分に言い聞かせようかと思ったか数え切れない
でも、それは逃げているだけのような気がしてそんな自分が嫌で・・・・・
紫陽さんから事実を告げられた時から、僕の中で何かが生まれて何かが消えた
それは、種を植えて花が咲いて散るような綺麗で感動的な事ではなく、もっと残酷で、それでいてとても美しいような上手く言葉では言い表せない気持ちだった
ドラマのように、その時だけ涙を流せばいいような事ならどんなによかったか
すぐに忘れられるならどんなに幸せか
でも、全て自分で選んで決めた人生だから後悔はしない
それだけは言える事だ
「すまない・・・・・もう大丈夫だから仕事にお行き」
そんな事を考えていたら、紫陽さんが小さな声で言った
「大丈夫です、今日はお休みになりましたので」
「えっ?」
「あはっ、楓さんがまた何かやったみたいで」
「クスッ」
「突然練習が中止になって、スタジオは立ち入り禁止に」
「おや・・・・一体何をやらかしたんだろうねぇ」
「聞くのが怖いですね」
「そうだねぇ」
「ですから僕もお休みになりました」
「そうかい」
「はい、だから今日はずっと傍にいますよ?」
「せっかくの休みなんだからどこかに出掛ければいいのに」
「・・・・・・・・・・・・」
「んっ?」
「僕の行きたい所は一つだけです」
「一つ?」
「はい、紫陽さんの傍」
「・・・・・・・心」
「何度も言わせないで下さいね」
それは本当
僕の行きたい所は紫陽さんの傍だけ
紫陽さんがいなければどこに行っても楽しくない
だけど、無理に一緒にどこかへ行きたいとも思わない
もし僕がどこかへ行きたいと言えばきっと、無理して笑いながら行くような人だから
「今日のお昼は何が食べたいですか?何でも作りますよ!」
「すまないねぇ、余り食欲がないんだ」
「でも、少しは食べないと」
「そうだね」
「そうですよ」
最近、余り物を食べなくなった
無理に食べさせようとはしないけど、やはり心配だから言ってしまう
素直に薬を飲んでくれるのは嬉しいけど、その副作用が辛そうで、紫陽さんを見る度に僕の胸が思い切り締め付けられてしまう
でもそれは、紫陽さんのせいではないから・・・・・
「あっ、そう言えば昨日会社で美味しそうな梨をいただいたんですよ」
「そうかい」
「少し食べられそうですか?」
「いや、今はいい」
「わかりました、ではベッドで」
「ここでいい・・・・・隣に居てくれればそれでいい」
「はい、傍にいます・・・・だから少し休んで下さい」
「眠くはないよ・・・・それに私は今のこの時間がとても幸せなのさ」
「紫陽さん」
「愛する人が隣にいる幸せ・・・・それ以上の幸せなどないだろ?」
「はい」
僕もそう
同じ事を考えていた
肩にもたれながら僕の手を握る紫陽さん
僕もとても幸せだと感じる
何も考えず、ただこうしているだけでいい
それだけでいい
温かい体温を感じられればそれでいい
「そう言えば、みなさんとの旅行はどこに行くのか楽しみですね・・・ふふっ、楓さんならプリンの国とか言いそうですね」
「そうだねぇ・・・・間違いない」
「和海さんなら本当に作っちゃいそうで怖いですけど」
「あはは・・・・確かに」
「紫陽さんはどこがいいですか?」
「そうだねぇ・・・・・どこがいいかな」
「僕は、景色が綺麗なところならどこでもいいです」
「なるほどねぇ」
「勿論、一緒に行くんですよ?」
「ああ、行こう」
「たくさん美味しいものを食べてたくさん笑って・・・・たくさん楽しい思い出を作りましょうね」
「楽しみだ」
「はい」
なんだろう
この感じ
いつもと同じはずなのにすごく不安でうまく笑えない
何でだろう
普通に会話しているのに何かがおかしいんだ
「心」
「はい、なんですか?」
「いや・・・・名前を呼んでみたかったのさ」
「好きなだけ呼んで下さい」
「私は幸せだ」
「僕もですよ」
「それはよかった・・・・本当に」
「当たり前じゃないですか」
「そうだね・・・・ありがとう」
「・・・・・・・・・・・もう」
「心」
「はい」
「心の手は・・・・温かいねぇ」
「紫陽さんの手も温かいですよ」
「そうかい」
「はい」
しっかり手を握りながら頷いた
「おや・・・・もう夕方かい?」
「・・・・・・・・・・・はい、二人でいると時間はあっという間ですね」
「そうだねぇ・・・・・」
紫陽さん・・・・・・・
でも、僕は笑顔でそう答えた
まだ太陽は部屋の中に置かれた花を明るく照らしていたけど、笑顔でそう答えたんだ
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