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こいつ誰?
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紫陽がいなくなっても時間は進む
いつまでも悲しんではいられない
心も休んだのは葬儀の時と、納骨の日だけだった
一人で部屋にいるのは耐えられないと言っていた
その気持ちがわかるから、休めとは言えなかった
いつものようにスタジオの玄関を開けようとした時、突然腕を掴まれた
「殺すよ?」
「ちょいちょい!怖いお人やなぁー」
こいつ誰?
馴れ馴れしい奴
「あんたはん、楓さんやろ?」
「・・・・・・・・だったら何」
「よかったわーー!やっと会えたわ」
「俺はあんたを知らないし、まずその手を離して」
「おっと、すんまへん」
「・・・・・・・・・・・」
どこの国からやって来たんだろう
変な奴
関西弁もなんとなく怪しいし
「そんな怖い顔はよしておくれやすー」
「生まれつきだがら」
「あははっ、おもろいお人やなぁー」
「邪魔なんだけど」
「あっ、待っておくれやす」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
どう見てもバンドをやるような感じには見えない
自分を売り込みに来たわけでもなさそうだ
「実はな、ここで紫陽が仕事をしてると聞いたさかい」
「・・・・・・・・・・・・・紫陽?」
「ええ、紫陽はどこに行けば会えますのん?」
「会えないね」
「そんな意地悪言わんと教えておくれやすー」
「会えないから会えないと言っただけ・・・・と言うかあんた紫陽の何?」
紫陽を知ってる?
一体誰?
「本人から聞いたんやで?ここで仕事してるって」
「返事になっていないね」
「はぁ・・・・・難しいお人やなぁ・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「紫陽には何も聞いてないみたいやなー」
「紫陽の身内は姉だけ・・・・でもその人も亡くなった」
「・・・・・・・・・・・えっ?嘘やろ・・・・そんな・・・・」
一体誰なんだ?
なんでそんなに悲しんでるんだろう
「紫陽に会わせておくれやす!」
「もし紫陽の知り合いなら・・・・・・・・その紫陽と最後に会話したのはいつ?」
「せやな・・・・・1年前やな」
1年前
まだ紫陽が元気だった頃か
「で、あんた誰?」
「うちかぁ?」
男のくせにおかしな言葉使いが気になったけど、不思議とイラついたりはしなかった
だって・・・・・・どことなく紫陽の面影があったから
何でだろう
「うちは紫陽の兄ちゃんやで」
「は?」
突然すぎてそんな返事しか出来なかった
だっておかしいよね
兄がいるなんて聞いてないし
馬鹿じゃない?
いきなり何を・・・・・・
「ほんまやで?でもうちは、ずっと施設で育ったんやけどな」
「何それ」
「親が子育てをしいひん人でな、うちを駅に捨てたらしいわ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
何言ってるの?
言葉も出ない
「聞いてるー?」
「紫陽とは関係ないね」
「それがあるんやで?」
「どうして」
「世間はほんま狭いでー?うちを捨てた母親の友人てのがおってな、急に消えたうちを心配して捜してくれてたんやって」
「それで?」
「それで、母親を問いただしてうちの事を聞き出したらしいわ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「すぐに捜す事は出来たらしいんやけどな、その人も一人暮らしで裕福ではなかったさかい、うちを引き取る事はできひん言うてな・・・・でも、毎月会いに来てくれて本当の母親みたいな人やったわ」
「だからどうしてそれが紫陽に関係するの?」
「まぁ、聞きぃや」
「・・・・・・・・・・・・」
「その後、うちが中学を卒業して働く事になって施設を出たんやけどな」
「うん」
「うちはどうしてもその人と一緒に暮らしたかったから、無理言うて一緒に暮らし始めたんよ」
「紫陽の母親の知り合いと?」
「そうやー、家族って言うのが欲しかったさかい」
「それで?」
「それでな、その人が亡くなる間際初めて話してくれたんや・・・・あんたには姉さんと弟がいるってね」
「どうしてお姉さんは施設に行かなくて済んだの?」
「女の子やからやろ?大きくなれば楽できるおもうたんやないの?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・じゃ、紫陽は?」
「その頃、母親にいい人が出来たらしくてな・・・・・結構裕福な暮らしをしてたらしいわ」
「うん」
「でも、そんな生活もすぐに終わって姉さんと弟を残したまま母親は消えたと聞いたわ」
「そう」
「その話を聞いたときはな、何でうちだけ?と思っていたからあの二人が憎くてな・・・・でも、あの二人も苦労してるんやろなって」
「その話が本当ならそうなるかもね」
「ホントやで?嘘やない」
「まぁいいや・・・それで?」
「それで、ふと思ったんよ・・・・うちの姉さんと弟に会ってみたいってな」
「うん」
「うちと暮らしていた人は、居場所までは知らんゆうてな・・・・・一人で僅かな手がかりだけを頼りに捜しつづけたんや」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「諦めかけた頃、紫陽がギタリストとして有名になってると知ってな」
「どうしてそれが弟の紫陽だと思ったの?」
「その手がかり言うんは、痣なんよ」
「痣?」
「首にな・・・ほら、うちにもあるやろ?」
確かに紫陽にも同じような痣があった
だけど
「テレビを観ててすぐに弟だと思ったんよ」
「会わなかったの?」
「いや・・・・・その頃の紫陽には会えんかったわ・・・・何を言っても信じてもらえへんし・・・何を言うても無駄やった」
「だろうね、でもお姉さんがいたでしょ」
「姉さんの居場所は全く手がかりがつかめずに今度こそ無理やと諦めかけた数年後、偶然紫陽を街で見かけて声をかけたんや」
「・・・・・・・・・・・・・」
「勿論、当然の事ながら信じてくれなかったけどな、それはそれでいいんや・・・・だから友達としてたまに連絡だけ取り合ってたんよ」
「うん」
「でも、どうしても信じてもらいたくてな・・・・・そしたら連絡ができひんし、心配でずっと悩んでこうしてここまで来たんよ」
「1年も経ってるのに?」
「色々と・・・・決心もあってな」
「決心・・・・・・」
「でも、漸くその決心もついたさかいこうして来たんよ・・・・・紫陽に会わせてもらえるかな?」
「あんた、名前は?」
「うちは紅陽」
「紅陽・・・・・・」
確かに名前は似ている
だけど
「悪いけど会わせる事は出来ない・・・・・」
「何でや?お願いやさかい」
「・・・・・・・・・・・無理」
「何でや!」
「まだ信用出来ないから」
「じゃ、何でも話すさかい」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
どうしよう
こいつは嘘を言っているようには思えない
だけど・・・・・・・・・・
紫陽の話をするにはまだ信用出来なかった
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