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誰かの為に料理を作るのは久しぶり
しばらく忘れていた感覚が少しずつよみがえる
紫陽さんの為に、紫陽さんの好きな食べ物を一生懸命に作ってたんだっけ
彼は何でも美味しいと言って食べてくれたけど、紅陽さんは何が好きなんだろう
やはり好きな食べ物を聞いた方がよかったかな
肉じゃがの味見しながら、味噌汁の火をとめた
こんな事なら買い物に行けばよかったかな
僕一人だから最近は買い物も行かなくなったし、自分の為に料理しても楽しくない
ありあわせの材料だけど、食べてくれるかな
「よし」
ご飯も炊けたし料理も出来た
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
食器棚を見つめ、しばらく考えた
そして、一度も使っていないお客様用の食器を箱から取り出し綺麗に洗った
紫陽さんが使っていたものは使えない
ずっとこのままにしておきたかった
これから先も、誰にも使わせないし使わせたくない
だって、これは全部紫陽さんの物だから
炊き立てのご飯をよそい、まずは仏壇に
後は、お茶
紅陽さんは、ずっとアルバムを見ていた
時折、涙を浮かべながら食い入るように見つめていた
「紫陽さん、お腹空きましたよね」
でも、どんなに言葉をかけても返って来ない
わかっていてもすごく辛い
「今夜はお兄様と一緒に食事をするんですよ・・・・・誰かと一緒に食事をするのは久しぶりです・・・・・怒らないで下さいね?」
ほんの少し苦笑しながら、紅陽さんに声をかけた
「お待たせしました、出来ました」
「ああ、とてもいい匂いがするねぇ」
「こちらへ」
リビングに料理を運び、尋ねた
「お酒はビールか日本酒しかないんですけど、買って来ましょうか」
「いや、お酒はやめておくよ」
「でも」
「ここで酔いつぶれたらホテルまでたどり着けないかもしれないしねぇ」
「少しだけなら」
「じゃ、日本酒を少しだけいただこう」
「はい」
日本酒が好きなのかな
紫陽さんもそうだった
「美味しい冷酒があるんですよ」
「そうかい」
「それとも熱燗に・・・・」
「心君」
「はい」
「うちは客じゃないんだ、そんなに気を使わないでおくれ」
「いえ、紫陽さんのお兄様は大事なお客様です」
「本当に紫陽はいい人を恋人に選んだねぇ・・・・・」
「そんな事は」
「とにかく、うちに気は使わないでおくれ」
「・・・・・・・・はい」
そんなに気を使っているように思われてしまったのかな
そんなつもりは・・・・・・・
「美味しそうだねぇ・・・こんな料理をいただくのは久しぶりだから嬉しいよ」
「ありあわせの材料で作ったのでこんなものしか出来なくて」
「十分さ」
よかった・・・・・
本当に嬉しそうな表情で
冷酒とグラスを用意して、テーブルに持って行き、グラスを差し出した
「ありがとう」
「どうぞ」
そっと注いだ冷酒が緩やかな波紋になって揺れていた
いつも紫陽さんにこうしてお酌してたっけ
「綺麗なグラスだ」
「紫陽さんも同じ事を言っていました」
「そうかい」
「はい」
「心君もどうぞ」
「あっ、はい」
そっと差し出したグラスに透明な液体が流れ込む
こんな光景はもう二度と見ることなどないと思っていたのにね
「じゃ、乾杯しましょう」
「そうだねぇ・・・・運命の出会いにかい?」
「えっ・・・」
「そんな顔をされるとうちが困ってしまうねぇ」
「ご、ごめんなさい」
「じゃ、新しい兄弟が出来たお祝いだ」
「はい」
「乾杯」
「乾杯」
きっと、言葉に深い意味などないはずなのに
きっと、今の僕の顔はすごく複雑な表情をしているかも知れない
ホント・・・・・ダメだな
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