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心
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「ごめん・・・そろそろ戻らないと心が心配するな」
「ああ、私の方こそすまなかった」
「何言ってんだよっ!まだまだ生きてくれないと困るんだよ!」
「・・・・・そうだねぇ」
涙を拭い、バックミラーを覗き目が腫れていないか確認した
「華は愛されているねぇ」
「あいつは鋭いからさ」
「そうかい」
「それに、今は怪我をして落ち込んでるし、これ以上悲しませたくないから」
「そうだね」
「ホントは隠し事はしたくないけど、イオの事だからギターが弾けなくなると思うし・・・・・まぁ、俺もまともに弾けないかも知れないけどさ」
「すまないねぇ」
俺は平気だ・・・・とは言えないけど、頑張るしかない
心だって本当は泣きたいのを我慢して笑顔で頑張っているんだ
「一番の心残りはね・・・・・」
「うん」
「心の事なんだ」
「そうだよな・・・・・好きなんだろ?」
「ああ、とてもね」
「そっか」
「私の事を忘れられてしまうのは悲しいけど、いつまでもいなくなった私を想い続けてもらうのも困る・・・・すごく複雑な気持ちなんだ」
「うん、何となくわかるよ」
「心には幸せになって欲しい、でもその幸せを私には与えてあげる事が出来ないのが辛いねぇ」
「何言ってんだよ、今だって与えているだろ?」
「そう思ってくれているのなら嬉しいねぇ」
「思ってるさ」
「そうかい・・・・ああ、そうかも知れないねぇ」
そう言って嬉しそうな顔をして微笑んでいた
「そうだよ」
「私は幸せ者だ」
「ああ、だから何でも心に話して辛い時は傍にいてもらえよな」
「そうだね」
「もちろん、俺も少しは頼ってくれよ」
「ああ」
「うん」
でも、きっと紫陽さんは誰も頼ったりしない
一人で苦しんで耐えるんだろうな
「もうすぐ着くから」
「じゃ、この話はもうおしまいだ」
「わかった」
「お腹すいたねぇ」
「そうだな」
「心は何を作ってくれたんだろう」
「何だろうな、でもいい匂いがしてたよ」
「そうかい、楽しみだ」
「だな」
そして紫陽さんはまたいつもの紫陽さんに戻っていた
薬が効いてきたのか、顔色もよくなったみたいだ
「ただいま~!」
「お帰りなさい、紫陽さんお疲れ様でした」
「ただいま」
心は笑顔で出迎えてくれた
どうしてそんな顔が出来るのかが不思議で仕方が無かった
「葵、紫陽さんお帰り」
「イオ、ただいま」
「華、おじゃまするよ」
「どうぞ~」
やはり嬉しそうだな
「食事が出来ていますよ、早く手を洗って来て下さいね」
「そうだねぇ」
「じゃ、こっちだ」
二人で洗面所に向かい、手を洗った
「いつもこんな感じ?」
「ああ、毎日だ」
「じゃ、風邪はひかないな」
「そうだね」
そんな会話をしながら鏡越しに微笑む紫陽さんの顔を見つめた
「葵~、ビールにする?それともワイン?」
イオの声が聞こえた
「飲むか?」
「そうだねぇ、たまにはいいね」
「じゃ、ワインにするか」
「ああ、お任せで」
「イオ~、ワイン頼むーー!」
「わかった~!」
そんなやりとりをしながらリビングに戻り、テーブルの上を見て思わず笑ってしまった
「まさかの和食・・・・・」
「刺身に筑前煮にキンピラと茶碗蒸しだねぇ」
「見事にワインに合わないな」
「でも、意外といけるかもしれないだろ?」
「そうかなぁ・・・・・」
そして・・・・・
「ちょ!何でお前達は日本酒なんだよ!」
「和食にはやはりこれですよね~、華さん」
「うんうん」
「あのなぁ・・・・・・」
「あははっ、やられたねぇ」
「と言うか、日本酒の選択肢はなかったよな?」
「そうだっけ?」
「ったく・・・・まぁいいや、食べようぜ」
「はい、ではいただきます!」
「かんぱーい!」
「乾杯」
なんだか不思議な光景だった
でも、心もイオも嬉しそうに笑っていた
「華さん、これ食べてみてください」
「うん、竹の子とか久しぶり」
「薄味ですけど」
「うんうん、すごく美味しい」
「よかったです」
「葵も食べてみなよ、すごく美味しいよ」
「だな」
上品に仕上がった筑前煮を食べながら心を見つめた
「紫陽さんは幸せだね」
「ん?」
「だって、ずっと美味しい料理が食べられるんだし」
「そうだねぇ・・・・幸せすぎて困ってしまうねぇ」
「困る事はありませんよ?」
「そうだった」
「あははっ、もう笑わせないでよ~」
「すまないすまない」
後数ヶ月しか一緒にいられないのに二人は笑っていた
どうしてそんな笑顔で話せるのかが俺にはわからない
「葵?どうしたの」
「いや、やっぱワインはどうかと」
「だーめ!開けちゃったんだから」
「はいはい」
もし俺だったらどうなんだろう
こんな風に笑えるのだろうか?
イオが消えるなんて考えられないし、イオを残して死ぬなんて考えただけで気が狂いそうだ
でも、今は・・・・・
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