アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
step up
-
午前で仕事を終えた俺はコンテストの準備に取り掛かるため急ぎ足でスタジオを出た。
昨夜の情事が災いしてか、全身が気だるくて頭の奥も未だぼんやりとしている。
痛む腰を擦りながら、今朝誰よりも笑顔で家を出ていった直輝が恨めしい。
今日の直輝は、専属モデルの契約を結んでいる時計ブランドの撮影だと聞いた。
たまたま直輝の撮影する現場が近くだったから足を運んでみたけど、昨日のことを考えるとどんな顔をして会えばいいのか分からなくてなかなか顔を出せない。
横を見れば外での撮影のおかげで、直輝を一目見ようと人が集まり少しのお祭り騒ぎになっていた。
この集団に紛れれば分からないだろうと、後ろの方から撮影の様子を見学する。
両左右から黄色い悲鳴が上がるたびに、俺の知ってる直輝じゃなくてモデルとしての直輝を思い知らされる。
デビュー当時は甘い笑顔で映ることの多かった直輝だけど、最近はアンニュイな印象を与える写真が多い。
今日も白いシャツに白いスキニーパンツを履いた直輝が、背景に映るビル群の中で一人立つ姿は浮世離れして見えた。
神聖なものみたいに。
腹が立つほどかっこいい。
綺麗で精錬されて。儚く見えるのに強く脈動を感じる。
怒りも忘れて惚けて見ていた時、ふと直輝の鋭い視線がこちらを向いた。
途端に湧き上がる黄色い悲鳴に、本調子ではない頭が揺れる。
「今のNAOKIみた?!」
「見た! 一瞬こっち向いたよね!」
「その後笑った!」
「やだ〜っ、NAOKI結婚して欲しいっ」
あちこちで行き交う熱気から少し離れようとして驚いた。
後ろの方にいたはずなのに気づけば背後にも大勢の人がいて、その視線は遠くの直輝に釘付けだ。
人混みに酔う前に抜け出して人垣から離れた俺は、少し歩いた先にあるベンチへと座り込んだ。
目を瞑って涼しい風に癒される。
遠くでは未だざわざわとした色んな声が聞こえるけど、ベンチのあるここは比較的静かで休憩するにはちょうどいい。
暫くの間目を閉じていたら、嗅ぎなれた香りが鼻孔をくすぐる。
陽光に照らされ赤く染まる瞼を開くと、そこにはやっぱり見慣れた誰かさんが満面の笑みで立っていた。
「おはよう」
「……おはよう、じゃないし」
俺の返事を聞いて、直輝がくすくすと肩を揺らす。
どうやってここに来たのか周りには俺が来た時と同じく、誰もいなかった。
「俺に会いに来たの?」
「違う」
「ふーん、じゃあどうしているの?」
「……ただ通りかかっただけだ! 調子乗るな馬鹿!」
さっきまで遠くからしか見えなかった綺麗な顔が間近にあって心臓が痛いぐらい鳴り出す。
直輝の白銀色の髪が風に靡かれる度にほんのり甘い匂いがして、恥ずかしくて、赤くなってるだろう顔を見られたくなくて、直輝の肩を強く押してしまう。
「祥、こっち向いて?」
「やだ」
「可愛い顔見せてよ祥ちゃん」
「やだっ!」
殴られた肩痛いかなとか、さっきの集団の中に直輝の好みの子がいたりするんじゃないかとか、気にしてないふりしても気にしてる事がふつふつと溢れる。
そんな俺を知ってか知らずか、直輝はやっぱり楽しそうに笑うと、俯いたままの俺を丸ごと抱きしめて髪にキスをした。
「不安そうな顔して見なくても俺には祥しか見えてないよ」
「うるさいアホ」
「うん、アホでいいよ。祥が可愛いからアホになっちゃうんだ」
「そういうことばっかり言っても昨日のことまだ怒ってるんだからな!」
「うん。ごめんね? でも仲直りしに来てくれたんだろう?」
「っ、だ、だから」
「うん」
今朝はまた素直になれなくてつっけんどんな態度しか取れなかったから。
俺も本当は寂しかったから。
直輝の中に俺がいるのか確認したくなるぐらい寂しい時もあるから。
「……す、素直に、なれなくて、ごめんねっ」
「ふふ」
項が真っ赤っかだよ、なんて甘い声で直輝が言う。
それを聞いてもっと赤くなったと思う。
一々言わなくていいんだよ馬鹿って文句を込めて、直輝の胸にぐりぐりと頭を押し付けてやった。
少しは理解しろよ。
愛情があるか確認するのはいいけど、俺の方が遠くにいる直輝に手が届かないんだって焦ってることを。
だから少しでも早く、同じ場所にたどり着きたいから頑張ってるってことを。
「祥、好きだよ」
「……ん」
ふてくされて頷いた俺の唇に、直輝の暖かい口付けが優しく触れた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
498 / 507