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四月になり早くも一週間が経つ。
約1ヶ月近くコンテストの為に奔走していたが、その本選も目前だ。
最近は俺がピリピリしているのを慮ってか、直輝は仕事を優先にしていて怖いほどに静かだ。
時たま顔を合わせる涼夏と口での喧嘩はあれど仕方ないと納得していることは目を見ればわかる。
涼夏には、今回のコンテストにてアシストをしてもらっていた。
初めての顔合わせの時は盛大に直輝は反対し、子供のようだったけど。
「舌打ちするな。祥が真似したらどうする」
「うるさいなぁ。影響を一番与えるあんたが悪の塊みたいなもんでしょ。今更よ」
ちょっとしたいざこざはあれど、直輝はもう涼夏に対して外面モードをするのに馬鹿馬鹿しく思ったらしく思うように言い合っている。
何に対しても冷静で品よく笑顔でいる直輝を心配していた俺からしたらいい事だと思えてきた。
涼夏との言い合いはお互いにとっても、日々の疲れをここぞとぶつけるいいストレス発散方なんだろう。
「祥ちゃん本当に俺にも見せてくれないの?」
「見せないよ」
「俺も手伝えることあるかもしれないのに」
「……はぁ」
どういうヘアアレンジにするか、コンセプトはどうするか、そういったものは既に決まっている。
今年の流行カラーを取り入れて、自分の見せたい最大限の作品を作るのに少しだって努力を惜しみたくなかった。
直輝だってそんなこと言われなくとも理解している。
理解はしているが、手伝えない自分に代わって涼夏が隣にいることは、納得はできないのだろう。
俺だってもし同じ状況であればと、考えてふと手を止めた。
直輝の隣に元恋人が……。
想像しただけで嫌だ。
昔の俺なら、きっと何も思わなかった。
思わないようにしまい込んでいただろう。
その枷を外したのは直輝で、貪欲でも自己中であっても、直輝の隣に居たいと思ってしまったのは俺なのだ。
俺の左手に指を絡めてほんの少しの時間さえ惜しいと愛情を注いでくれる直輝。
邪魔はしない。本当はこんな事も言いたくない。でも、だけど、心と頭は別物だから少しでも俺から安心出来る言葉が欲しい。
もう一度直輝を見上げて、優しく笑んでいる綺麗な瞳を見つめた。
「……好きだから」
「は?」
ポツリ、零れた言葉は聞こえなかったのか。
それとも耳を疑ったのだろうか?
直輝の切れ長の瞳が微かに見開かれた。
それを愛しいと思いながらもう一度、言葉に乗せた。
「だから、直輝が好きだよ」
「っ」
直輝も予想だにしなかったのだろう。
不意打ちを食らったと言わんばかりに、直輝の頬が赤く染まる。
だが全てを見る前に、綺麗な男らしい手が顔を隠してしまった。
ちょっとだけ惜しいと思う。
直輝の照れた顔なんてなかなか見れないから。
「祥」
しかし相手は直輝だ。そうだ、してやられてただで起きる男のはずがない。
「俺も愛してるよ」
とろりと蜂蜜のかかった砂糖菓子のように甘く、直輝が耳元で俺にだけ囁く。
吐息が触れてじわりと疼く体を、直輝か抱きしめようとする。
誘惑に力を込めて、甘い瞳にギリッと対峙した。
「ちぃぃっ!」
部屋に響く大きな舌打ちに、直輝も涼夏もぽかんと呆けたような表情を浮かべた。
だが次に起きた反応は、真逆なもので。
腹を抱えて楽しげに笑う涼夏に対して直輝はおどろおどろしい。
目を釣り上げて口元だけで微笑むという魔王のような表情で「お前のせいだ」と言っている。
人生で初めての舌打ちは上手く薬になったようだ。
その様子を見て笑う俺に直輝は苦笑を浮かべる。
俺も少しばかり胸を膨らませて見返した。
すると、悪戯な子供を叱るような、それでいて愛しいと慈しむような瞳を向けて俺の頭を少しだけ乱暴に撫でくり回した。
あと少し。
コンテストまではもう少し。
その日にかける思いはどんな願いよりもまっさらで純粋だ。
「直輝に見せたい」ただそれだけの作品。
だからこそ、その作品を今見せるわけにも、教えるわけにもいけない。
もう少しだけ待っていて。
その日を終えたら、直輝の腕の中に飛び込むから。
だからその日まで、直輝に甘えるのはお預けなのだ。
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