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勿忘草
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キスをしていると
くすぐったい甘ったるい気持ちが溢れてくる
高1の頃の俺には
絶対に手には出来ないと思っていた幸せが
今目の前にあることに何だか夢みたいだとさえ思えた
「俺も直輝も大人になってくんだよね」
「まあな」
「……直輝と俺って変わら無さそう」
「寧ろ変わる訳がないだろ」
何を想像したのか祥がふっと笑みを零した
「後さ、俺ねもう一つ夢があるんだ」
「ん?」
「……結婚式」
「え?」
「ふふっ、結婚式だよ」
キスをしたせいで
さっきよりも赤くなった顔をした祥がいたずらにそう言う
それから直ぐ膝の間に挟まるようにして座っていた祥が、体を反転させて向き合う形になると跨って座り直した
「……結婚式?」
「うん、そう」
「この映画と同じ結婚式?」
「ふふっ、だからそうだってば」
俺の口から出ても何らおかしくはないけど
祥の口からその言葉が出るとは予想もしてなくて驚きが隠せない
驚いたまま祥を見つめていたら
俺の考えてることを読み取ったのか不満そうな顔をしてから再び話を続けた
「場所はさ、どこでもいいんだけど」
「うん」
「真っ白な教会で、緑が沢山あって空気の美味しいところ……森の中にこっそりあるみたいな」
「森の中でやりたいの?」
「森の中……うん。 自然とか沢山あったら素敵だなって思った」
「へえー、それで?」
「んー、小さな可愛らしいチャベルがあって……大人数とかじゃなくて本当に仲のいい人達だけを呼んでこっそりとやる。 二人でもいいかもね」
「ふっ、祥らしいな」
楽しそうに話す
祥の言ったその教会を想像してみる
大人になって
一人の力で生きていけるくらい成長できたら
そこに祥を連れてってやりたい
そう、考えながら話を聞いていた時
話を続ける祥の言葉に耳を疑った
「……それで、綺麗な教会から皆の笑顔に迎えられて直輝が皆よりもうんっと幸せそうな笑顔で歩いてくるんだ」
「その横にはドレス着た祥か?」
「…………」
ふわっと優しい笑顔を浮かべて、日向みたいに柔らかく微笑むと祥が首に腕を回して抱きついてくる
ぎゅうっと痛いほどに抱きついてきて肩口に顔を埋めてから祥がゆっくりと顔をあげた
まるで何かを決心したかのように
今ここで何かを誓ったかのように
耳元でひと呼吸置くと
また苦しいくらいに抱きついてくる
俺も様子のおかしい祥の背中に腕を回して抱きしめ返そうとしたとき
次に言い放たれた言葉によってそれは遮られた
「直輝の横に立つのは俺じゃない」
「――――え?」
「俺じゃなくて、直輝と同じくらい幸せな笑顔を浮かべた花嫁さん」
「……は?」
「直輝と結婚式をあげるのは、俺じゃなくて直輝が選んだ女の人」
「――ッ?!」
「俺は、そんな二人を見て二人の次に一番いい笑顔で笑うの」
「しょ、う……何言ってんだ……?」
「……」
俺と花嫁?
祥じゃなくて、女の人?
言ってる意味が分からない
冗談としては少しふざけすぎた
じゃあ今のは酔ってるせいで起きた
俺の聞き間違いなのかってそう思ったけど
耳元で確かに祥はそう言っていて
顔が見えなくて冗談だって
イタズラだって言って欲しくて
きっと今頃ニヤニヤ悪い顔して笑って言ってんだろって……
そう思った時
これが現実だ、とでも突きつけるようにして
首から離れた祥が俺の目を真っ直ぐに見つめて口を開いた
「俺はね、直輝の幼馴染みとして。 家族みたいな一番の友人として皆と一緒に参列するんだ」
「冗談だろ……何言ってんだよ……」
「……それでね、直輝と直輝が愛した花嫁さんの二人が幸せそうに笑った笑顔を見て俺も釣られて笑うの。 幸せだなって思いながら……俺今世界で一番幸せだなって」
「…………」
「………」
言葉が、出てこない
祥の瞳を見るのが苦しいのに逸らす事さえ出来ない
祥の瞳が嫌ってほど真っ直ぐに見つめてきて
変わらずその顔は優しく微笑んでいたままで
急に何かに縛り付けられたかのように身動き一つ取れないまま、指の一本さえ動かない
冗談だろっていつもみたいに笑い飛ばそうとしたのに喉がカラカラに乾いて声の一つも出せなかった
「……直輝」
「………っ」
ゆっくりと、落ち着いた声で名前を呼ばれる
いつもならその声一つで胸が暖かく染まるのに今は一ミリもそうはならなくて冷えていく
目の前にいる祥は今迄で一番の笑顔を作って
大好きなその笑顔で
大嫌いな言葉を口にした
「俺達、別れよう」
「――――ッ」
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