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子猫と白ライオン
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恥ずかしくて固まった俺の襟足を、直輝が笑いながらくるくる指に巻き付ける
「いいよ」
「へ?」
「子猫にあわせてくれんだろ?」
「う、うん……!」
「聖夜も呼ぶ?」
「えっ」
「ふっ、冗談。 でも聖夜が俺達の事すごい心配してるから近いうち三人で飯でも食いに行こう」
「……うん」
「まあ大体の心配の相手は俺じゃなくて祥だけどね」
「そ、うなの?」
「そうだよ。 祥は直ぐに抱え込むから周りはいつも冷や冷やしてる」
「……ごめんね」
「俺達が勝手に世話焼いてるだけだから謝んな。 でも謝るくらいならもう少し頼れよ」
「……」
「……まあ気が向いたら相談して。 友達の話は仕方なく時間作ってやるから」
「し、仕方なくって……!」
わざとおちょくる直輝にまんまと乗せられて後ろを振り返る
顔を合わせた瞬間、息をのんだ
直輝が馬鹿みたい優しい目して穏やかに笑っているから
俺は……
もうそれ以上何も言うことが出来なかった
「仕事あるんだろ? 戻りな」
「……」
「……祥が気まずくなるような事にはならないから大丈夫」
「直輝……っ」
「ん?」
「ごめん……ごめんなさい」
「……何に謝ってんだよバーカ」
全部にだよ
俺のために調子合わせてくれてるのも
あんなに意地悪だった癖に真剣に向き合って優しくしてくれてるのも
俺だって直輝とずっと幼馴染みをしてたんだ
恋人の期間だってある
直輝がいつもとうんと無理してることぐらいわかってるんだよ
「仕事終わったら連絡して。 今日は俺オフだから」
「……夜になるかも」
「ザラにあることだろ?」
「……そ、だよね」
「でももし無理そうなら連絡してくれたら構わないから」
「……」
「じゃあな祥」
「──っ!」
ヒラリ、と手を振って直輝が離れていく
どこか遠くに行くわけでもないのに
その言葉と後ろ姿を見るのが怖くて堪らなかった
最後の最後にまで直輝は俺に逃げ道をくれた
無理そうなら連絡してって
俺が土壇場になって嫌になった時の逃げ道
「……ごめん」
直輝が居なくなったその場所で
ただ後ろ姿を見つめながらポツリと言葉を零した
「祥! 何してたのよっ」
「すみません!」
「もういいから早く来てさっさと手伝って」
「っ」
あの後急いで戻った控え室には
怜さんの姿はもうなくて
予定よりも早まった時間のせいで
怜さんが一人でメイクをしていた
俺もすぐさま加わってなんとか終えたけど
こんな気が緩んだままじゃいつか失敗する
「ちょっと祥」
「っ! はい……」
怜さんが付いてこいと首で指示する
言われるままその後ろをついていくと
人気のない裏に回りこんだ
「お前」
「……っ」
いつものオネエ口調じゃない
男の喋り方
まだ俺も数えるほどしか見たことないけど
怜さんが男の喋り方に戻る時は本気で怒ってる時か真面目に話す時のどちらかだ
「昨日からどうした?」
「へ……?」
「だから昨日からどうしたって言ってんだよ」
「な、にも……」
「俺に手間掛けさせといて何も無いは聞かねえよ」
「……」
「あいつだろ? 今朝来てた昨日もいた白髪の男」
「……」
「何も無いなんて嘘だろ」
「っ、何も無いです……本当に……」
「じゃあ何でお前の名前知ってんだよ」
「そ、れは……」
「隠したってお前のその醜い顔見たら分かる」
「み、醜い……」
「何か間違えたか?」
「いえ」
「……はぁ」
盛大に大きな溜息をついた怜さんが
髪をかきあげて頭の高い位置で髪を縛る
「あのねぇ祥」
「はい……」
「あんた気づいてないかもしれないけど顔に書いてあるわよ」
「へ?」
「あの白髪君を愛してるって」
「な……っ?! ないです! ない!」
「……意地はってるの? それとも照れてるの?」
「どっちも違います!」
「本当からかうの楽しい子」
「う……」
オネエ口調に戻った怜さんがニヤリと愉しそうに口を歪めて微笑む
ああその笑顔本当に苦手だなぁ
またきっと何か企んでるんだろう
はぁーなんて出そうになる溜息を飲み込むとこつん、とおでこをつつかれた
「素直になりなさい」
「え?」
「あんたに今一番必要な薬よ」
「……無理です」
「ああ?」
「いや、出来ないんです」
「……なんでよ」
地響きのような低い声で威嚇されてビクッと肩が跳ね上がるけど
でもそれでも無理なものは無理なんだ
「俺がもし素直になったらそのせいで傷つくから」
「……」
「三年前にそれで決意して離れたんです。 一緒に居るとズルズル二人揃ってダメになるから、一度嫌でも距離を取らなきゃならなかった」
「なんかあったの?」
「俺達の間には何も無かったです。 寧ろ、うまく行ってました……でも世間はそれを許さない。 俺達を静かに放って置いてはくれないし……この世界で働いてたら怜さんならもう分かるでしょう?」
「……馬鹿ね」
「……でもそうするって決めたんです」
「あんたのその相手を思いやって自己犠牲をする所嫌いじゃないけど。 でもあたしは好きでもないわ」
「……」
「自分の幸せ感じてないやつが、人の事守るだなんて抜かしてんじゃないわよ」
「……っ」
「まずあんたが胸はって幸せ感じてなきゃあんたに守られるやつはいい迷惑よ。 そんな顔させて守られたくなんかないって誰だって思うわ」
「……それでも……そうするしかなかった」
「餓鬼の頃のあんたにとってはそれが精一杯の出来ることだったのかもね……今になったら馬鹿な考えでもその当時にとったら必死の選択だってことか」
いつもの飄々とした怜さんじゃなくて
どこか遠くを見るように話す姿がやけに脳裏に焼き付く
怜さんも……やっぱり誰かを愛して何かの為に手放したことがあるんだろうか
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