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子猫と白ライオン
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いつの間にか眠っていた俺は
とてつもない腹に広がる痛みで目を覚ました
寝ぼけたまま辺りを見回すと
祥が居て、まだ祥の部屋にいて
ああ良かった祥と話せたのは
もう何度も見てきた夢なんかでも
幻なんかでもなくて現実何だと胸をなでおろした時
二度目の痛みが襲ってきた
俺の顔を殴った張本人はプンプン怒りながらさっさと部屋を出ていく
ひとり部屋に取り残された俺は頭の中はハテナが沢山浮かんだ
「……てか、痛え」
「ミャア」
「しーちゃんの飼い主さんは手荒だね」
なんで殴られたのか理解出来なくてボーとしていたらしーちゃんが騒ぎで起きたのか擦り寄ってくる
小さな体を抱っこして優しく指で撫でてやるとゴロゴロと気持ちよさそうに鳴いていた
とりあえず下に降りるか
そう決めて立ち上がった先に
見覚えのあるものがあった
初めてのデートの時にとった
ライオンのぬいぐるみ
しーちゃんと同じ真っ白な毛
何度見てもあんなの欲しがる気がしれない
でかいし幅取るし人形がそもそも気味悪いし
……でもそれよりも捨てられてなかったんだ
てっきり全部捨てられてると思った
だけどその白ライオンのぬいぐるみは
ベットの横に変わらず置いてあって
今俺達が立っている時間が
あの日々から三年も時が過ぎているのが嘘みたいだ
現実こそ夢なんじゃないかって思うほど
祥も俺も変わらず当たり前のように話していて
だけど1つ変わったんだとしたら
祥がどこか憂いた雰囲気を纏うようになったこと
昔は陽向みたいにポカポカしていた笑顔だったのに三年ぶりに見る祥の笑った顔は苦しくて
思わず抱きしめたくなるほど
どこか弱々しい
三年の間に何があった?
聞きたくて聞けない事が沢山ある
どこまで祥の中に踏み込んでいいのか
どこまでが友達として接するラインなのか
祥と違って未だ未練たらたらな俺は
その停止線が無くて困る
ずっと連絡が来るかもしれないって
肌身離さず鬱陶しいだけの携帯なんかを持ち歩いていた
また一人で泣いてるんじゃないかって
どこにも背負い込んだもの下ろせずにどんどん無理してるんじゃないかって
何度も連絡しようとして
その手を下ろした
何度も電話をしようとして
その口を閉じた
綺麗な景色を見た時
一番に見せてやりたいって浮かぶのは祥で
今もしも隣に一緒に居たなら
どんな笑顔で笑うかなって
そんな事ばっか考えて居たら
いつの間にか三年が経っていた
一歩もあの日から動けないまま
時間だけが過ぎていた
「……終わりにしなきゃな」
よく遊びに来ていた懐かしい祥の部屋で
静まり返った空間には俺だけの情けない声が消えてなくなる
別々の道を歩いてる事
いつか全て良かったと胸張って言えるように
俺も歩き出さなきゃならない
いつまでも祥の思い出を辿って
空想ばかりを繰り返して夢に見て
起きた時に全て消えていく虚しさに情けない笑いを零して
一人の部屋があんなにも冷たかった事に何度も心臓を締め付けられて
綺麗だと皆が言う景色に色を失って
これじゃあいつまでも繰り返してばかりだから全てを清算する為に帰ってきた
日本に居られる二ヶ月の間に
全てを終わらせられるように
祥も全てを受け入れようなんてしなくていいのに
俺との思い出は全て捨てて消しちゃえばきっと楽だ
それでも馬鹿みたいに優しい祥は
責任感とかで自分の首締めてるんだろうな
本当……馬鹿なヤツ
頭の中に浮かぶ考えを全て消して目を閉じる
大きく吸い込んだ息を深く深く吐き出すと
いつもと変わらない笑顔をもう一度作って部屋を出た
……それにしても久しぶりに夢の中が暖かった
何を見たかなんて覚えてないけど
手のひらから泣きたくなるような暖かい温もりが全身に伝わって
何か優しい音が聞こえたような……
何だったんだろうな
とにかく久しぶりに心が満たされた
それはきっと祥と会えたからなのか
動き出す決意がついたからなのか
理由は分からなかったけど
幸せの温度を久しぶりに味わった
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