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近づく距離、阻む手
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「お疲れ様でしたー」
直輝が日本に帰ってきて
俺の家に遊びにきたあの日から一週間以上が過ぎた
相変わらず現場では疎か
プライベートで会うこともなかなか無いけど
たまに耳にする話だったり
スタジオが同じですれ違う時だったり
水面下で密かに交わすアイコンタクトが
やけにドキドキして何だか二人だけの時間みたいなのが
嬉しくないとは言えないわけで……
「はぁぁ……何やってるんだろ俺」
手放しで今の現状を喜べるはずが無い
それは確実にひっそりと思いが膨れ上がってる事を自覚しているからだし
直輝から離れるって決めたくせに
結局今はこの状態に満たされてる部分があるから
挙句に未だ直輝に「おかえり」と言えてない
あの日っきりうやむやにしたまま……
これでいいわけも無くて悶々と悩む俺とは反対にやっぱり直輝は違うんだろうなーなんて考える毎日だ
「……ふー」
「何ため息ついてんの」
「ーーっ?!」
「久しぶり」
ガタガタっ、と音を立てて椅子から立ち上がる
今まさに思い浮かべていた相手がドアの前に立っていて心臓がバクバクと五月蝿い
……なんで直輝はいつもこんな急なんだよ
あの漫画に出てくるドアでも持ってるのかってくらい急だし、その度にこっちは心臓が止まるほど驚いてヒヤッとする
バクバク五月蝿い心臓を落ち着かせると平然を装って口を開いた
「……直輝こそ何でいるの」
「今日の最後の仕事が祥と同じスタジオだったから寄ってみた」
「はぁ。 早く帰りなよ」
「祥こそ」
「俺は今日も泊まり」
「ふーん、忙しいんだな」
「最近やっと怜さんにね。 でもまだまだ」
「夢は叶えられそ?」
「え……」
「俺の専属になるんだろ?」
「……あ、ああ……うん」
「ふっ」
俺達スタッフように用意されている控え室の中を物色しながら直輝が急にそんな事を流れるように口にする
あんまりにも自然にその事を聞いてくるから反応がよそよそしくなってしまった
「……直輝は?」
「んー?」
「直輝は……どう? 目標とか、そういうのに近づけてる?」
「まあね、俺は何でも出来るからな」
「な……!」
「間抜けな祥とは違ってね」
「煩いなバカ!」
ニヤリと微笑んだ直輝が鏡越しに見てくる
その憎たらしい笑顔に暴言をはくと手にしていた書類を置いて直輝の元へ歩み寄った
「有名人様はさっさと帰ってください!」
「あははっ、怒った?」
「怒ってない!」
「嘘つけ、目がこーんなになってるよ?」
「〜〜っ! 俺はもう寝るの! 早く出てけバカ!」
目尻を人差し指で吊り上げた直輝が俺をからかってくる
一層ムカムカした気持ちを押し付けるようにグイグイ背中を押して直輝を無理矢理扉まで連れてった
「ごめんって」
「……」
「差し入れ持ってきたんだよ。 ご飯しっかり食ってないんだろ?」
「餌付けなんて無駄だからな」
「餌付けされてるって自覚してんだ?」
「〜〜ッ?!」
「ふふっ、嘘だよ。 痛い痛い、ごめんね」
「もう勝手にしろ!」
「じゃあまだ帰らない」
「……もう好きにしろよ」
ヘラヘラ笑う直輝に付き合ってたら
夜が明けそうだ
連日徹夜で体力も本当に底をつきそうだし
無駄に動くことを辞めた俺は椅子に腰掛けた
「これ食べたら少し寝ろ。 顔色悪いぞ」
「いつ連絡来るか分からないから寝れないの」
「俺が居るから寝ろ」
「……は?」
「連絡来たら起こしてやるから少しでも体休めた方がいい」
「いや直輝にそんな迷惑かけられないから」
「迷惑とかじゃないだろ。 俺は明日オフだし」
「……」
「それに一人で寝れてんの? また怖い夢見てない?」
「別に……」
直輝が持ってきてくれた
食べやすくカットされているサンドイッチを食べながら視線を逸らす
俺が一人だと未だ昔の思い出を夢で見て寝付けない事覚えてるんだな……
「それ食べて寝ろよ」
「……」
「返事は?」
「……はい」
「いい子」
「ーーッ」
「ん?」
「あ……いや、何でもない」
ドキドキ心臓が締め付けられる
付き合ってた頃良く言われた「いい子」って言葉につい反応してしまった
俺が意地張ってきつく当たった後とか
直輝にいつも宥められてそう言われながら頭撫でらるのが好きだった
「……」
「どうした?」
「ううん、何も無いよ」
「あんま無理して食べるなよ。 残ったら俺が食べるし」
「ありがとう」
口に含んだサンドイッチを水で無理矢理に胃に流し込む
俺があんまり食欲が無いことに気づいた直輝の言葉に甘えて、数個だけ食べると残りは直輝が食べてくれた
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