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「ふっ……う、ん……!」
「……」
無理矢理に口の中を割って入り込んでくる結葵君の舌から必死に逃げ回る
くちゅ、くちっ、とわざと水音を立てて
嫌がる俺を冷たく見つめながら
キスをしてくる結葵君に触れられる場所から温度が消えていく
冷たくて気持ち悪くて
直輝とのキスを上書きされたみたいで悲しくて堪らない
だけど、どれだけ必死に逃げていても
どれだけ抵抗しても結葵君の舌に絡め取られて舐められて噛まれる度に
ビクビクと震え出す体と
じんわりと熱を持ち出した自分の浅ましさに涙がこみ上げそうだった
「……っぷは……! うぅ……」
「僕とキスしてそんな嫌そうな顔したのは祥さんが初めてです」
「……っ」
「……。 まあいいや、じゃあ天使さんに電話してください」
しゅるり、と手首のネクタイを解かれる
ああ……今なら逃げられるのに……
だけどもし俺が逃げたら?
このまま部屋を飛び出して
直輝に助けてと縋ったら直輝は俺を助けてくれるだろう
そしてまた直輝が自分の何かを捨てることになる
それはタレント生命を失う事なのか
それとも同性愛者という肩書きを背負う事なのか
いや、そんな単純な事じゃない
どんな些細な事だってどれも直輝の人生では大切なピースの一つだ
「……」
何の迷いもなく
少しの戸惑いもなく
躊躇せずに俺のために何にでもしてしまう直輝がずっと怖かった
それがずっとずっと怖くて堪らなくて
その不安と恐怖を突かれたのはあの夜が初めてだったんだ
直輝に内緒で呼ばれたプロダクション
直輝が所属している事務所の社長室
そこで初めて俺は
この世界の怖さと汚さを知った
俺達が子供過ぎた現実の厳しさも
「……分かった。 電話するよ」
「……あれ? 急に雰囲気変わりましたね」
「話してる時間は無いから」
「……。 うん、つまらないですね」
「え?」
「僕は嫌がりながらかける祥さんの悲しい顔が見たいんです」
「……」
「でも今何を決意したのか……そんな全て受け入れた表情の祥さんを虐めても面白くない」
1ミリも表情を変えることなく
結葵君が冷たく話す
じっと見つめていた先に
結葵君の鞄が目に入った
「聞いてます?」
「……っ」
静かに立ち上がる結葵君を見てゴクリと喉を鳴らす
今なら出来るかもしれない
そう決めた途端
倒れ込んでいた体を起き上がらせて結葵君を押し倒すと鞄へと駆け寄った
「ッ?!」
ハッと驚く結葵君を背に鞄の中をひっくり返す
警戒心が高いだけじゃなくて用意周到な結葵君のことだ
携帯だけで俺を脅せなかった時の為に必ずその元を持ち歩いてるはず
誰も信じてなさそうだからこそ
自分しか信じていない人間は
いつも大事なものは自分の手の中に持つ習性がある
「っ! あった!」
予想通り出てきたDVDを手に持って強く床に叩きつける
大きな音を立てて床に散らばるプラスチックのケースとDVDを思い切り踏みつけた時、
後ろから伸びた結葵君に壁へと体を投げ飛ばされた
「ーーっ! ゲホッ!」
「……はぁ。 壊しちゃいましたね」
「っ、う」
「駄目だよ祥さん。 僕に逆らっちゃ」
壁に背中を思い切り打って
息苦しさに咳き込んだ時結葵君の手が首を締め付ける
ギリギリと締めあげるのその手を剥がそうともがいていたけど無駄だ
苦しさに顔を歪めて薄く開いた視界には
さっきとは違う興奮した表情の結葵君が居て恐怖に体が震える
本能的に伸びた手は
宙を思い切り裂くと結葵君の右頬に命中した
「ーーハッ、ゲホゲホっ! う、っ」
「……っ痛」
頬を殴られた結葵君が後ろによろめいて
そのお陰で開放される
殴られたまま俯いていた顔はやがて俺へと向けられて
その可愛いらしい顔は愉しそうに歪められていた
そして弧をえがく唇には
殴られた時に切ったのか口端から赤い血が一筋伝い落ちていく
やってしまった、と後悔するのは
数秒の時間さえもかからなかった
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