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ズレ出す歯車
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***
「帰れ」
「……」
「顔も見たくねぇ……ッ」
「……退け」
直輝の上に乗り上げたまま
涙がポロポロと溢れて止まらない
気持ちを否定されるよりも
俺のこの想いを勘違いだと言われたことが何よりも悲しかった
直輝は祥くんが好きだから
こんな飄々として何考えてるか
わからないやつだけど
祥くんの事を愛してるのだけは知ってたから
頭のどこかで覚悟は出来てた
抱いてもらえない方が確率が高い事なんて分かってて腹なんか括って
それでも情けなく頭下げてすがり付いたのに
直輝はそれ自体を否定したんじゃなくて
根こそぎ否定したんだ
「……早く出てけよッ!」
「ッ」
泣いてる俺を見て
リビングを出ていこうとする直輝が躊躇する
今更何だよ
俺の気持ち全否定しといて優しくされたところで腹ただしいだけだ
変わらず直輝の表情は冷たいままだった
でもどこか悲しそうな気がして
ほんと、何考えてるかわからなくて頭が悪い俺には理解してやれなくて
ただずっと膝を抱えて泣くしか出来なかった
「だっさ。 つーか本当……、……ださい」
何を考えても
どう思い返しても
ださいとしか思えない
抱いてとか
二度と言うことないだろ……
てか人生の中で言ったことさえも驚きなのに
二回は言ったよな俺……
グズグズと垂れてくる鼻水をティッシュでかむと荒れ果てた部屋を見渡す
「……ッ、うぜぇな……直輝の匂いするし」
微かに香る直輝の香水の匂い
そんなに付けてるわけでもないのに
すぐに嗅ぎ分ける俺って本当なんなんだよ
部屋に残る匂いにまた涙がこみ上げてきて
泣きたくないから無理矢理涙を拭くと部屋を片付ける事にした
新聞紙の上に硝子の破片を置いていく
お気に入りのグラスも割れたし本当ついてねーよ
そんなぶつくさ文句を垂れながら片していたら割れて飛び散った破片に血がついているのに気づいた
「……」
それはちょっと、とかそんな量じゃなくて
かなり深く切ったんだと分かるほどで
真っ先に自分の体を見下ろしたけど
全く怪我なんてしてなくて
じゃあ、これ誰の血だよって考えたら直輝の一択で
また涙がこみ上げてきた
だって、あいつ、多分だけど俺を庇ったんだ
俺の勘違いって思ってたけど崩れ落ちる時、
俺のこと全く抱きしめてくれなかった癖に崩れ落ちるあの時だけ俺の背中に腕を回して強く抱き寄せてくれた
その後だって・・・・・・
俺が揺さぶる度に痛そうな顔してて
てっきり俺はどこか打ったぐらいしか考える余裕がなかったのに
だけど直輝ら声も漏らさないで
痛みに耐えてたのか・・・・・・?
立ち上がる時も
俺のこと押退けようとしたら簡単に出来たくせに
泣き止むまで待ってくれてた
思い返せば思い返すほど
涙が溢れてくる
気づきたくなかった直輝の優しさに
心臓がグチャグチャに引っ掻かれた様に痛み出した
「〜〜っんとに、ばっかじゃねーのッ」
だから・・・・・・
だからそういう所がずるいんだって
お前の嘘は見破りにくいんだよ
「あー、もうっ! 腹立つ……」
泣き止んだのにまた後から後から涙が零れ落ちる
俺本当にお前のこと好きだったんだって
迷惑になるのなんて知ってたから
抱いてとか縋るのどんだけ勇気いると思ってんだよ
でも、それよりも今は
俺のせいで怪我したってこと
本当は優しいやつとか俺知ってんだよ
今頃こんな事があったから
そのせいで祥くんの事でも思い返して
落ちこんでるかもしれない
でも絶対人に弱い顔見せねーし
だから……
だから俺は
お前が祥くんを思うように
俺もお前が悲しい時に傍に居てやりてぇって思ってたんだよ
「……」
グルグル色んな感情が湧き上がる
情けない顔のまま座り込んでいた腰を持ち上げると
転がっていたウイスキーの蓋を開けて一口胃に流し込み財布を持って家を飛び出した
このまま直輝と喧嘩して言い訳がない
あいつ今きっと苦しい時だ
俺だって苦しいけど
でも追いかけてしまうのは
悲しい時に傍に居てやりたいって思うのは
惚れた弱みってものなんだろうか
カァ――と燃え上がるアルコールの熱を感じて夜闇の外を走り出す
宛もなく
確信もなかったけど
あいつはまだ近くに居るって
走り出した足は迷いなく夜の道を蹴っていた
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