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約束のクランクイン
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来るな、と願っても時間が止まるなんて事は起きなくて無情にも過ぎ去る時間はとうとう結葵君と約束したクランクインの当日を迎えた
「……」
これから始まる一ヶ月の撮影期間
新しいスタートに胸を踊らせて
少しの緊張と大きな責任感を胸に抱いて嬉々とした現場の中一人優れない顔をしてしまう
直輝が主演となれば嫌でも顔を見る事になるのに一週間前の俺なら喜んで居たんだろうな
直輝に会えるって
直輝の仕事をしている姿をこんなにも近くで見れるんだ
ずっと、ずっと、願っていた事が現実に近づいたんだって嬉しさに包まれる筈だったのに今は会いたくなくて仕方ない
監督達と現場の皆と大切な役者達とスタッフの皆で始まりに拍手をしてベクトルを一つに向けて頑張ると決めては解散する
その集まった中には直輝も居れば結葵君も居るし、それに爽さんも・・・・・・
出来るだけ顔を合わせたくなかった俺は
解散するなり早足でスタジオを出ようとした
けれど後ろから伸びた手に腕を掴まれて後一歩の所でそれは叶わない
「祥」
「……」
「俺何かしたか?」
「……っ」
してない
直輝は何もしてない
何かしたんだとしたら俺だ
「直輝少し話があるから後で俺の控え室来て欲しい」
「……」
「そこで話そう。 ここは他の人が居るから」
「分かった」
掴まれた腕を振り払う事もしないで
足元を見下ろしたまま直輝に伝えた
ザワザワと未だ後ろではいろんな人が話をして盛り上がっている
これからの事の確認だったり
早速今日から始まる撮影についてだったり
そんな中話せる訳もなくて
なんて理由をつけてはただ直輝から逃げたいだけ
逃げて出来ればこのままで居たい
そうすれば俺は直輝に酷い言葉なんて言わなくて済むのに
だけど直輝がそうしてくれる訳もないし
昔から俺の異変に驚くほど気づく奴だから
感づかれて色んなことを直輝が知るよりも先に遠ざける為、また酷い言葉を俺はぶつけるんだろう
「じゃあ後で」
「……すぐ向かう」
俺の腕を離した直輝から遠ざかるとそのままスタジオを出て真っ直ぐに控え室へと戻った
けれど、扉を開けてそこに座る人を見るなり再び心臓は冷ややかな水に沈んだように凍りつく
「……結葵君」
「お疲れ様です。 それで天使さんとは話しました?」
「これから。 だから出てけ」
「ふっ、祥さんて案外口悪いですね」
「どうでもいいだろそんなの」
椅子に座ってニコリと笑う結葵君を見る度あの日の記憶が蘇って息が苦しくなる
あの後結葵君の気が済むまで散々だった
意識を飛ばしそうになれば無理矢理阻止されてずっと続くかのような痛み
一ヶ月我慢すればいいんだって事じゃなくて
例え一ヶ月だろうが一年だろうが
もう直輝の傍で対等に笑う事なんか出来ないんだって気づいた瞬間から全身の力が抜けていった
「僕も居ようかな」
「え?」
「今からここで天使さんの目の前で祥さんのこと犯すとかどうです?」
「っ」
「ふふっ、冗談ですよ」
「早く、出てけ」
「……分かりました。 終わったら連絡下さい」
愉しそうに笑う彼を見て
心がどんどん冷えていく
楽しいからこんな事をすると言っていた結葵君のあの笑みはこびりつくように脳内に張り付いていて
本当に何でも仕出かしてしまいそうな危ない雰囲気は反抗心を奪っていく
直輝の事傷つけようとすれば
どんな事でもしてしまいそうな結葵君が怖くて堪らなかった
バタンと音を立てて閉まった扉を見たまま
結葵君が出て行った空っぽの部屋に佇む
瞼を閉じて深く息を繰り返すと
身体が小さく震えているのに気づいた
・・・・・・俺達はどこで間違えたんだろう
もっと賢く生きていたら上手く守る術があったのだろうか
ただ好きな人を好きで居るだけで
どれだけのものを人は犠牲に出来るんだろう
耐えられるんだろう
そんな虚しい事を考え出したら直輝とこのまま何処かへ逃げてしまいたくなる
まだ直輝が俺を好きだなんて事あるわけないのに
もしも直輝もまだ俺のことを好きで居てくれたら――
「祥」
「ッ!」
「……話って?」
「……」
「どうした?」
「……直輝」
「ん?」
「あのさ」
「うん」
「こんりんざい俺と関わらないで欲しい」
「え?」
「だから、俺に話しかけないで。 やっぱり考えたんだけど直輝の存在は俺にとってマイナスだから」
「しょう……?」
「……直輝が……邪魔なんだ」
「ッ」
「直輝が目障りなんだよ」
いいや。
そんな夢みたいな事考えるのはよそう
この人を守れるなら
こんな事へっちゃらじゃないか
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