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真実と膿む傷
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――嘘をついている
祥の言葉を聞いて何よりも先に思った事だった
でも一体何故嘘をついている?
何の為にあの祥が嘘をついてるんだ
口ではまるで終えたかのように
すました振りして控え室を出た後
グルグルと頭の中ではひっきりなしに考えを巡らせていた
三年間の間に例えば祥が変わったとして
平気で嘘をつけるやつになったんだとしても
そうせざる負えない理由があったからだ
理由もなく祥は卑怯な事も自分を偽る様なことも俺みたいに人を欺くなんてことはしない
だからこそ一度身を引く事を選んだ
あのままあの場所で嘘をつくなと責めた所で祥の頑固な考えはそう簡単に崩せない
それに少し頭のどこかではあの言葉が本心から来るものかもなんて不安も無いとは言えなかった
「直輝くーん! 帰るよ!」
「……マネさん」
「なんだいっ?」
早速明日から撮影がある俺を気遣ってわざわざ断ったにも関わらず迎えに来てくれた篠田さんに呼びかける
それからずっと、今迄胸につっかえていた疑問を押し黙る事も出来なくてタイミングなんて気にする余裕もないまま口にした
「三年前、どうして俺を急にニューヨークの学校に行かないなんて誘ったの?」
「え?」
「あの時はあまり深く考えても無かったし俺もどこかに行きたかったから二つ返事で頷いた」
「……」
「だけど冷静になった後おかしいとはずっと思ってたんだ。 どうしてまた急にそんな事を俺に持ちかけた?」
「社長が直輝君の能力にかけていたからじゃないかな」
「あの独裁者な社長がそんな理由で? 大金叩いて迄俺を外国に飛ばしたい理由があったんじゃないの?」
「……直輝君は今更それを知ってどうするの?」
「それは肯定だって事か?」
いつもの笑みを消した篠田さんに嫌な予感が溢れ出す
ほんの少しピリピリしだした空気は
一層凍りつくように温度を下げていった
俺の考えすぎだと笑ってくれると思っていたのに篠田さんはまるで何かを試すかのように見つめてくる
「直輝君がそんな事を聞くから気になっただけだよ」
「他に事実があるんならどれだけ今更だって鼻で笑われてもやり直す」
「……」
「絶対に俺の意思で動く。 その時篠田さんと、社長と対峙する事になったんだとしても俺は曲げないよ」
篠田さんも嘘をついている・・・・・・
冷静になればなるほど
見抜きたくない嘘を今になって見つけ出す
けれど俺の脅しにも表情を変えることなく笑顔を作るとやれやれと肩を持ち上げた
「ふぅー、そんな怖い顔するなよ直輝君」
「それで、答えは?」
「直輝君が何を想像したかは知らないけどそんな深く考えるような事じゃないさ」
「……」
「社長は天真爛漫な方だからきっと思いつき。 ほら帰ろう」
とん、と肩を叩いて早速歩き出す篠田さんに付いていく気分にはならない
嘘をついていて、これだけわざとストレートにならないギリギリの問い詰めをされてでも事実を言おうと悩む事さえしない人の隣に座って笑うなんて気が立っている今の俺にはできるわけが無い
「悪いけど、一人で帰る」
「直輝君」
「仕事を投げ出すことなんてしないよ。 任された事は最後まで責任もってやるし期待にも応える」
「だったらまずは僕のお願いを聞いてくれないかな」
「黙って詮索せずに大人の言う事を聞け?」
「そんな事は思ってないよ」
「へぇー、そう。 だったら俺のお願いも聞いてよ篠田さん」
「ッ!」
「今、虫の居所が凄く悪いんだ。 あんたと一緒に居たら問題を起こすかもしれない……それでも俺を車に乗せる?」
「直輝君……」
数メートル空いていた篠田さんとの距離を詰めて顔を近づける
瞳を覗きこめばほんの少し揺れ動くその奥に怖いほど笑顔を浮かべた俺が映っていた
「分かったよ……その代わりちゃんと自己管理すること!」
「ありがとう。 わざわざ来てくれたのにごめんね、気をつけて帰って」
「はぁ、もう全く……昔の社長にそっくりだよ君は」
深く長い溜息を吐き出してから
車のキーをチラつかせると篠田さんは直ぐに車へと乗り込んだ
低くうねるようなエンジン音を響かせると
俺にもう一度自己管理と口うるさく言い残して地下駐車場を出ていく
車を見送った俺は、
そのまま帰るなんて選択肢はとっくに消え去っていて真っ直ぐと目指す先は祥の控え室
やっぱり放っておくだなんてことは出来ない
もしもあの言葉が本音ならトドメを刺して貰うべきだ
三年前、有耶無耶になったトドメの言葉
聞きたくも無いけど本心であるならきっと祥は言うだろう
本心でないなら
見えないその理由から守るだけだ
シンプルな話だ
腹をくくった途端にがんじがらめだった思考から鎖が外れゆく
祥が何に怯えているのかは分からない
だけど三年前の事も今起きているこの現実も少々手荒だとしても、有耶無耶にするなんて考えは一ミリも無かった
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