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あの日の続き
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「だったら憎まれる方がいい」
「っ、苦しい……、結葵く……ッ」
「何も綺麗な愛が全てだなんてあるわけない」
「く、ッ」
「綺麗なものばかりが受け入れられるだけで人の気持ちが綺麗だなんて事は無いんですよ祥さん」
「な、に言って、んだよ……ッ」
ぎりぎりと首を締め付ける結葵君の茶色く色素の薄い瞳がポッカリと空いた洞窟の黒に見えてゾクリと鳥肌が立つ
どうして結葵君はこんなにも冷たい目の色をしているのか
結葵君と視線が絡めば絡むほど
昔話してくれた過去の話も寂しいと漏らしたその言葉も嘘には到底思えなくて馬鹿だと分かっていても昔の結葵君は嘘じゃないと思ってしまう
それが結葵君をイラつかせる火種になるんだとしても、これ自体が間違った考えなんだとしてもやっぱり俺はこうなった全てを結葵君のせいにする気にはなれなかった
「ケホッ……! うっ、ゲホゲホ」
「……まだそんなに僕に対して余裕があるならもっと酷くして構わないですよね」
「……っ」
「……ムカつく」
開放された体は大きく息を吸い込む度に咳き込む
失いかけていた酸素を肺が求めて何度も呼吸を繰り返すと冷たく見下ろす結葵君へ顔を上げた
「結葵君」
「……」
「確かに綺麗なものばかりじゃないけど……どんな形でも歪でも、やっぱり誰かを愛した時は綺麗だって思う」
「っ、もう、いい」
「結葵君だってきっと――」
「黙れッ!」
「……」
「……っ、それ以上言ったら今すぐ写真ばら撒きます」
珍しく声を荒らげた結葵君の爪が肩に食いこむ
・・・・・・やっぱり俺は結葵君を恨むとか無理だ
どう見ても迷子になった子供にしか見えないその悲しそうな表情に喉の奥が締め付けられた
けど結局俺じゃあ結葵君が求めてるものはあげることなんて出来ない
本人が気づいてないままじゃずっと結葵君だって満たされない
どうしてこんな事をするのか
何となく分かったのは結葵君の目が
三年前俺を無理矢理に組み敷いた時の直輝とそっくりだったから
どうしたらいいのか分からないまま傷つける事しか知らない寂しさの埋め方をいつかの遠い記憶で見た事があるから
彼も昔見たあの人達と同じなんだと気づいたら一層心が息苦しくなった
本当、結葵君の言う通りだと思う
もしも結葵君を恨めたならきっと今頃楽だ
俺は被害者で結葵君を悪い加害者にして
大好きな人と手を取り合って笑うのを邪魔されましたって恨んで逃げる事が出来る
だけどそうやって恨んで逃げると人は簡単に弱って傷つけなくてもいい事までしてしまう事を幼い頃目の前で見たじゃないか
何も出来ない小さい命に対して
怖いほどの憎悪を見たじゃないか
だからどれだけ綺麗事でも
偽善者だって言われてもそうやって人を憎みたくないんだ
「紺藤さーん、準備出来てますかー?」
「ッ」
「……結葵君、呼ばれてる」
「……無駄なこと考えないでください。 そういうの僕大嫌いなんで」
「分かったから……早く、行ってきなよ」
「……」
乱れた呼吸を整えると
さっきまでの空気が嘘みたいに静かに収まる
いつもと変わらない俳優としての「紺藤 結葵」として楽屋を出ていくその姿は10代にして大人を認めさせるほどのプロの顔だった
「……はぁ。 本当、手加減出来ないんだなぁ」
一人きりになった部屋に気の抜けた声が響く
捕まれた肩はジンジンと熱を放っていてシャツが擦れる度にヒリヒリと痛んだ
考えるなと言われても考えてしまう
結葵君をどうしたらいいか
彼がもしも自分の人生に絶望していても
諦めていないんだとしたら
誰かが取り返しの付かなくなる前に手を差しのべるべきだ
だからってエゴや自己満足を満たす為にする様な優しさを間違えた接し方じゃなくて、もっとちゃんと根深いところまで届くような
結葵君の嫌う愛情が、結葵君を変えられるなんてことを彼は気づいて居ないんだろう
同情なんてする気もそんな彼のプライドを傷つける事する気は無いけどほんの少しだけ可哀想だと思った
例え失くしたとしても
誰かに愛されたら、愛したら、変われる筈なのにって
酷く傷つくけど
でも俺はそれさえ愛しいって思えた
直輝を愛さなきゃ俺はもっと弱かった筈だから
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