アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
あの日の続き
-
「は……、ほんと馬鹿だよな……」
「ごめん……っ」
「結局、昔も今も好きだったのは俺だけだった?」
「……」
乾いた笑い声が張り付いたように零れる
さっきまでの怒りや焦りはどこへ消えたのか不思議に思うほど冷静な思考回路には十数年間の祥との思い出が駆け巡っていた
「好きになるんじゃなかった」
「ーーッ」
最後にポツリと溢れた言葉は
酷く傷ついた表情を浮かべた祥を独り残し共に置いてきた
好きになるんじゃなかったなんてそんな事を心の底から思ったのは初めてだった
嫌いだと言われて終わった世界で
どうやって息をしたらいいのか
教えて貰えば良かっただなんて自嘲が溢れる
空っぽになりそうな俺を満たしてたのは
いつでも祥の存在だった
ただ流れる様に
ただ消えて無くなる様に
過ぎる時間を埋めてくれたのは
祥との思い出の時間だけだった
置き去りの時間ばかりを愛そうとして
あの日の続きを繰り返し夢に見て
重ねてきた日々を未来にすり替えて
ただ祥の全てを知りたかった
ただ祥の全てになりたかった
望む事はただ一つ、
俺の手で祥を幸せにしてやりたかった事
それが俺の一番の夢だった
だけど今は届かない夢だと捨てるべきものと変わって
探した祥との明日はもうここにはないんだと、全てを諦めてハイ終わりなんて切り替えるにはあんまりにも時間がかかりすぎたんだ
どこでもいい
どこでも構わないから今すぐ何処か
別のところへ行きたい
そう願い上手く息が続かないまま歩き続けると曲がり角へと差し掛かった時視界が揺れた
「きゃ……っ!」
「……」
グチャグチャになった視界で
あてもなく歩みを止めない体は誰かとぶつかりあう
途端に触れ合った場所から流れ込む他人の冷たいその温度に嫌悪感が溢れてきて思わず身を引くと、床に倒れ込んだその誰かがやがてハッキリとしてきた
「ご、ごめんなさい!」
「俺こそ……怪我ないですか?」
「へ……? わ、あ、はい!」
「……」
彼女を知ってる
今まさに撮っている映画の主役である女性だ
甘い声に、甘い香水の匂い
女らしい柔らかい体に
誘う様な瞳
男であるべき俺が好きになるべき相手
だけどそれが祥でないのなら
俺にとっては何も意味を示さないのだからどうでもいい
そこまで考えて溜息が零れる
どうしてこんなに惚れてしまったんだ
結局こうして馬鹿みたいに傷ついて
傷ついた分だけ祥を酷く罵倒する
優しい祥の傷跡を知っていて俺は
「好きにならなきゃ良かった」なんて言葉を吐いてしまったんだ
今頃独りで泣いていないか
また苦しいのに笑顔を作っていないか
強がりなんかじゃなくていつも誰かの為に
笑顔を浮かべていた祥を守りたかった
「泣き顔なんてもう誰も見たくないだろ?」
そう言っていつだって笑っていた強い祥が
俺の前では酷く弱くてその背中はいつも震えていてやっぱり俺は、祥を1人にしたくない
そう思っているのに床に張り付いたかのように足が動かないのは
もう祥は俺じゃない他の誰かの隣に居場所を見つけたんだと知ってしまったから
「あ、あの、あまつか……さん?」
「……あ、すみません。 考え事してしまいました。 なんですか?」
「良かったら、この後ご飯なんてどうですか……? 初めて一緒のお仕事ですし! 迷惑じゃなければ」
「……」
──辞めておきます
きっと一時間前の俺なら迷わず断っていた
縋るような上目遣いも
計算しつくされた話し方も甘え方も首の傾げ方も全部が塗りだくられた絵の具を見てるみたいで気分が悪くなる
でも今はもう
断る理由さえ失ってしまった
「……行こうかな」
「え……!」
「俺もちょうど、そんな気分だったし」
「じゃ、じゃあ!」
ただのご飯の誘いじゃないことだってぐらい分かっている
分かっているけどただずっと祥だけを待っていた三年が嘘のように消えていき
ただ流されるように
冷たい女の体温に身を委ねて
見たくない現実から目を背けて歩き出した
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
288 / 507