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雷鳴と懺悔の言葉
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「でも確かに今日は襲いに来たわけじゃないんで何もしません。 必要も無いし」
「……はぁ。 だったら早く寝なよ」
「……」
「一人じゃ寝れないんだろ? ベット使いな結葵君は」
「祥さんはどこで?」
「ソファで寝るよ」
「一緒に寝ればいいじゃないですか」
「一緒にって……」
「今更隠す何かなんて無いでしょう?」
「お陰様でね」
「ふっ、怒った祥さんも可愛いですね」
「……」
本当に何で俺の周りはこういうタイプが多いんだろう
俺様だったり横暴だったり
その癖恨めないずるい奴ばかりだ
「早く寝なよ。 少しでも寝た方がいい」
「はい。 お休みなさい祥さん」
「ん」
渋々ベットに潜りこんで
結葵君とは反対側へ顔を向ける
それから瞼を閉じて暫くすると
隣で同じように横になっていた結葵君が
体を起こす気配がした
また何かあったのかと目だけをそちらに向ける
未だ外は雷が雷鳴を轟かせていて
その光が窓から差し込む度に部屋の中が
一瞬だけ明るくなった
「……ッ」
だから見えてしまった
シャツを脱ぎ好きてた結葵君の背中に残る傷
昼間と変わらない消えない痕に静かに息を呑む
「……何見てるんですか」
「あっ、いや……」
「珍しい?」
「……ううん」
「……」
「俺の弟も、……結葵君と同じ火傷の傷がある」
「……弟さん?」
「結葵君よりひとつ上の弟」
「……。 虐待、されてたんですか?」
「俺が知らない間にね。 俺はいつもそうやって守られてばかりだって知った日に死にたくなったよ」
今でも覚えてるあの日の後悔の念
もっと早く気づいていればと
そうすればこんなに手遅れにはならなかったのにと
何度となく自分の馬鹿さに呆れた日でもあるし、もう二度と誰かに守られてるだけの奴にはならないと決めた日
それからその後悔をして数年後に再び後悔をする日が来た。
ちょうど直輝が居なくなって少しした頃
二度目の後悔の念と絶望
「……俺はぶたれたぐらいしかなかった。 ……笑っちゃうよな弟は俺の知らない所でずっと耐えてたのに俺は何だかんだ上手くやって行けてるなんて一人で浮かれて、自分の世界だけが平和だって事に気づいてなかった」
「お父さんに?」
「そう。 血の繋がりは無いけど」
「今もまだ続いてるんですか?」
「今は無いよ。 でも三年前迄続いてた……暴力はお義父さんが酒を飲んで荒れてる時だけだったから我慢だって思ってたけどいい加減無理だなって……高校辞めて働く事も考えて弟と一緒に家を出て行くことも考えてたんだ」
「……」
「でもある事がきっかけでピタリと酒を飲んでも暴力はなくなって、寧ろ傷ついた弟の事を凄く愛してくれてた。 いや元々本当にいい人なんだよ、こんな事聞かされてそりゃ無いって思うかもしれないけど……俺達の両親と小さい頃から仲の良かった幼馴染みらしくて、俺が4歳の時に父さん達が交通事故で亡くなってさ」
「それから、ずっと面倒を?」
「そう。 名前は享さんて言ってね料理が苦手で不器用だけど物凄く温厚な人で俺達を引き取ったのはまだ23歳なんて若さで、俺が今子供二人を引き取れるかって聞かれたら首を縦に振る勇気なんてない。 それでも享さんは俺達を引き取ってくれた。 家族なんて重さに耐えられる程の余裕も無かったのに。 俺達を引き取った親戚が弟のせいで両親は死んだんだって逆恨み受けて……疫病神扱い。 もしも享さんが居なきゃ弟はきっと殺されてたし俺も同じく行方不明とかで死んでたと思う」
「でもその享さんて人に結局は虐げられたんでしょう?」
「……そうだね。 うん、結局俺は本当に綺麗事ばっかなのかも。 いい人だって思い込みたいだけなのかもね……でもね初めから悪い人なんて居ないと思ってる。 いつだって自分の心に嫌なヤツって誰にでも潜んでて、自分の弱さに負けた時初めてその負の感情が表に出る。 それから人を傷つける……人を傷つけて見たくないものから逃げる。 それをすると何度も繰り返す、だから俺は綺麗事でもこのまま変わらないと思う」
「……」
「変わった時はきっと──俺も人を悪意で傷つける悪人になってる時だ」
「……祥さんは変わらなさそうですね。 ずっとそのままでいそう」
「……どうだろう。 それは分からないよいつかは負けるかもしれないし、傷つけたくないと思ってても人は傷つけあってるしね。 傷つけたことのない人間なんてこの世界探しても一人だって居ないだろう?」
「案外現実的な考えしてるんですね……」
「何だよそれ」
「僕はもっと、祥さんは頭の中も花畑な不幸なんて知らない人だと思ってました。 平和ボケしたおめでたい人だと」
「……ふふっ。 皮肉?」
「はい、皮肉です」
笑う結葵君を見て少し救われる
他人事のように聞き流してくれることに
もしも少しでも励まされでもしたら
きっと惨めでどうしようもなかっただろう
「祥さんが僕に話してくれたのは」
「……」
「僕を信用してるからとか、僕を好きだからとかじゃないですよね」
「……うん」
「……僕がちょうどいい距離に居るから話せたんでしょう? 近くもなく、遠くもない……居ても居なくても支障のない、そんなまだお互い線を引いた外側に居る距離」
「うん、ごめん」
「おかしな話ですよね。 大切な人にこそ聞いて欲しいと思うのに、大切な人だからこそ聞かれたくないし頼れない。 深く考えすぎて深く距離を詰めすぎて、たまに息がしづらくて仕方ない」
「……」
「僕にも1人信用してるやつが居たんです」
「大切な人?」
「……。 いいえ、もう過去です。 全部、全部……昔の僕は捨てました」
「……」
「……その幼馴染みはいつも傍に居てくれたけど、それが逆に恐ろしかった。 拒んでもそれを読み取る程の頭の良さが無いから入って欲しく無いところまで入ってきて、気づかれたくない事に気づく……そしたらいつか僕は独りに耐えられなくなると思って彼をめちゃくちゃに罵って傷つけて嘲笑ったんです。
祥さんが言う、──自分の弱さに負けた時でした」
そう言った結葵君がふと窓の外を見る
いつの間に雨が止んだのだろう
気づけば窓の外は静寂に包まれていて
厚い雲の隙間からは光がさしこんでいる
ぼんやりとその景色を見つめて
どこか遠くに思いを馳せながら話している結葵君の背中を静かに見つめていた
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