アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
月夜の庭、踊る星
-
窓の外から消え入る様に月の光が差し込む
薄暗くて静かな部屋で重なる二つの影を頼りなくその光は照らしていた
「んっ……なお……、やめてッ」
「辞めない。 もう、祥の言葉は聞かない」
「いや……! だ、めっ、直輝っ」
「……祥好きだ」
「ーーッ」
「こっち見て。 キスしてい?」
「ッ、卑怯だ……」
「うん、知ってる。 でも祥に触れる事が出来て今凄い幸せ」
困ったように悲しそうに笑うから
喉の奥が締め付けられて心の奥がチクチク痛みだす
逃げても、背けても、何度でも直輝の唇が追いかけてくるから、俺じゃない、俺の意思じゃないなんて言い訳をしてキスをして・・・・・・
抗えと警告を鳴らす頭の中の命令とこのまま直輝に全てを委ねたい心がぶつかって、段々とその天秤は傾き出す
「嫌だ」と漏らしながらも俺の手は直輝の背中に必死になって腕を伸ばしてその温もりに縋りつく
月夜に照らされた部屋には嫌になるほど自分の甘ったるくて頭痛のするような吐息が響いていた
「は、っあ……なおっ、なお……っ」
「祥、俺のこと好き?」
「っ、知らない……そんなの、知らないッ」
「逃げないで。 教えて、ちゃんと俺の目見て」
「無理だよ……っ」
「俺は好きだよ。 ……大好きだ今も……昔も、これからも。 祥だけ、祥しか好きじゃない」
「い……っ……で」
そんな悲しい声で言わないでくれ
好きだなんて、そんな悲しい声でそんな言葉を囁くなんて卑怯だ
俺のこと嫌いになって欲しいから
あんなにも傷つけたのに
どうして・・・・・・
どうして直輝は俺のこと嫌ってくれないの
「な……んで」
「……」
「どうして直輝は今になって」
「……祥」
「なんで今更……っそんなこと言うんだよ」
「ッ、ごめん」
「もう無理なんだって……まだダメなんだ……っ」
「まだって……? じゃあいつだったらいいんだよッ、もう待てない」
「やっ、いやだっ!」
「……嘘つき。 じゃあ何で俺の背中に手回してんの? 何で俺のこと突き飛ばさないの?」
「ッ」
「このまま居るなら自惚れるよ……。 祥もまだ俺のこと好きなんだって、まだ俺と同じ気持ちで居てくれるって……お願いだから教えてくれ……、祥の気持ちはどこにある……?」
「……ッ、直輝」
するりと頬を撫でられて悲しい色の瞳に見下ろされ涙が溢れそうになる
ああ、ずっと待っていた
三年前からずっとずっと、この手の感触を待っていたんだ
何でも無いことで喧嘩をする度に、俺が一方的にヘソを曲げた度に、悔しくて落ち込んでいる度に、────俺を愛してくれる度に
いつでも、どんな時でも、直輝の手は俺のことを優しく撫でてくれてそれから宝物に触れる様にキスをしてくれる
その時間が泣きたいぐらい暖かくて
死んじゃうくらい幸せで
怖くなるぐらい失いたくない時間だった
「三年間、何度も祥がどうして俺と別れたのか考えてた」
「……」
「嫌いとは口にしないまま祥は俺の横から去っていったから、ずっとその事に期待してたんだ。 また会えた時にはもしかしたらやり直せるかもしれないって……でも違った。 俺、どこで間違えた……? 俺は一体何を間違えた……? 教えてくれ……ッ、もう祥を失いたくない……離れたくないんだ……ッ」
「……っ、く……ふ、ぅ……ッ」
こんなに弱々しい姿の直輝を見たことが無くて、こんなに苦しめたのは自分だと知って噛み締めていた口から堪らず嗚咽が漏れる
間違えたのは直輝だけじゃない
間違えたのはきっと誰のせいでも、
誰かでもない
ただ俺達が何も知らない世間知らずで
未来に淡い期待ばかりをしてしまったからだ
疑うことなくずっと御伽話のように手を繋いで笑いあって生きていけると夢見たから
もしも別れた事に理由を付けるならば
俺達は世間知らずな夢見がちの子供だったんだ
「……直輝」
「なに?」
「三年前に別れたのは────」
三年前に別れたのはあの日、俺の携帯にメールが来たことが始まりだったんだろう
俺達が別れるカウントダウンが始まったのは直輝の事務所から届いた一通のメールから
『ーー時に事務所へ来てください』
ただそれだけの簡潔な内容
そこに加えて丁寧な言葉遣いで添えられた直輝には知られないようにとのご忠告
そのメールが届いたのは
きっと来年も再来年も、もっともっと先の未来でも同じようにこうして一緒の夜を過ごして同じ朝を一番に笑顔で迎えられると信じたクリスマスの次の日だった
俺達ならやっていけると
愛し合った直ぐ後ろで向き合わなきゃならない現実はもう目前に迫っていたのに、見たくないからまだ学生だからってそうやって盲目的に愛し合った末路が今の俺達なんだ
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
303 / 507