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初めて聞く本当の声
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「はっきり言ってもう買い取るだけじゃ手が回らないほど君達の関係が世間で公になるのは遠くない話だ。 俺のことを幾らでも嫌って構わないし、憎んでもらって構わないけどこれだけは嘘じゃない」
「……」
「君達はこれから大人になる。 まだ子供だ。 十分に、自分ってものも強い意志も信念もあるし心は大人と変わらない。 けれどまだ一人の力で生きていけるほどすべてが備わっているわけでもないのが事実だ。 こうなって自分達の力で乗り越えて行けるか? 止まない罵倒に、心無い中傷に、自己抑止の欠片もない下衆な笑い声に……それ全てを乗り越えてしっかりとした大人になれるか?」
「……っ、乗り……越えてっ」
「行けないだろう?」
「ーーッ」
俯き噛み締めていた唇が震える。答えられない一言が、戸惑った言葉が、反響している。社長の隠すことをしない言葉に思わず顔を上げた時、息を飲んだ
「しゃ、社長!」
「これは大人としてお願いする。 天使の、君の、──大切な未来を潰さないでくれ」
「……どうしてそんな」
見上げた先、目の前の社長が頭を下げていた。さっきまで1度だって俺から目を逸らすことをしなかった社長が立ち上がって深く頭を下げている姿を見て痛いほど力の篭っていた拳がゆっくりと解かれていった
「君達はこれからだ。 まだ十代で、乗り換えていけると信じて疑わないその強さには俺も感化される物もあるのが事実だ。 けれど、長い目でみて欲しい。 今優先するべきものを、未来の重さを、人生が長く短いことを……君が守りたいものが何なのかを。 しっかりと考えた上で、返事を貰いたい」
その姿を見て、その言葉を聞いて、俺達の現実を見て・・・・・・覚悟は固まっていた
考えても考えても、取るべき選択と、感情は交わらない
直輝の未来を守りたい。直輝の人生に大きな傷なんかつけたくない。直輝に守られなきゃと思われてばかりの俺は一体なんなんだよって、怒りと、どうしようもならない現実の世界に対する悲しみ
話を終えてプロダクションを後にしたあと、真っ先に直輝に会いたかった。相談をしようとだって思った。二人で決めようって思っていた
だけど日本を離れて、直輝と離れて、二週間。海外研修の間、違う国の世界を見た。日本を飛び出していっそうのこと誰も知らない場所に逃げちゃおうかなんて逃げた事だってある
でも例えば俺が直輝にそれを求めたら直輝は迷わずに頷くんだろうと思うとそこまで考えて、堪らず笑いがこみ上げてくる。社長の言う通りで、見透かされていた俺の弱さを突かれて一言も言い返せなかった自分に腹が立って、惨めで仕方が無い。
──『自分の為に躊躇なく何でも捨てる直輝が怖い』
何度も頭の中を駆け巡る言葉に、どうしようもなく息がつまりそうになって泣きたくなる
その真っ直ぐさが怖いんだ。人の人生を左右する事に怖さを感じないわけがない。いつか何処かで熱が冷めた時に、考え直した時にどれだけ後悔したって戻せない人生の時間を直輝は簡単に切り捨てる
それは俺を守るためなんだって事を知っているから、尚更、直輝には相談が出来なかった
だから自分勝手なのもこれこそ裏切りだって分かっていてもどれだけ直輝と話したって直輝が大丈夫だって言ったって直輝と一緒に居られるとは思えなかった。
大丈夫だ、平気だって強く思って未来を疑わない直輝と。ああいつか終わるんだろうな、失くなるんだろうなとシャボン玉みたいに未来を考える俺とじゃ、見てる未来が違いすぎて苦しくなる
今だけじゃなくて、もっと先もこのまま変わらず俺達は抱きしめあった肩越しに違う未来を思い浮かべて笑い合うなんてこと。言わずとも終わりが来るぐらいならそれなら俺は──
それなら俺は別れた未来でもう一度・・・・・・そう、願うように別れを選んだんだ
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