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終わりの始まり
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「お前こなき爺並に泣いたな」
「……ずびばぜん」
「声枯れてるからさっさと家帰ったら寝ろ。 折角今日まで頑張ったんだからラストも自分の手で飾りたいだろ?」
「……はい」
「それと、終わったとしてもまた始まるんだ。 お前と天使直輝の関係だって終わったとしてもそれで終わりじゃない」
「……」
「そんな化物みたいな不細工な顔してないで、最後の日は笑顔で居てやれ」
「はい」
「じゃあな」
「怜さんありがとうございました」
帰っていく怜さんの背中にお礼を言うと、しっしっと手で払われる。その姿を見てクスクス笑いながらバイクに跨ると真っ直ぐに家へと帰った。それからお風呂に直行し、暖かい湯船の中で出来る限りの事を洗いながして気を引き締めると、気持ちを入れ替える。
怜さんのお陰で少しでもすっきりした俺は初めての映画撮影として、専属としての最後の仕事の日を迎えた。
「結葵君、おはよう」
「祥さんおはようございます」
「今日で終わりだね」
「あっという間でしたね」
「……うんほんとに」
結葵君の楽屋へ向かうと、やっぱり予定の時間よりも早くなのにもう来ていた
台本を見ている結葵君と軽く挨拶をして、仕事の準備に取り掛かる。いつもと大して仕事は変わらないけど、やっぱり気持ちはいつもより多く篭るのは仕方ない。
今日まで色々あったと思うと、何だか感慨深くて悲しいものとは違う涙が出そうだった
予定時刻になって結葵君のヘアメイクに取り掛かる。本当に整った綺麗な顔をしているから特段手を加えることも無くて、ベースのままに化粧とヘアセットを終えるとスタジオ入をする。
「おはようございますー」
「おっはよ!」
「よろしくお願いします」
「最後の日だからって気は抜くなよ〜」
挨拶をして中に入ればこの1ヶ月ずっと顔を合わせて一緒に過ごしてきた皆が最後の撮影のために忙しく働いていて、その中心には昨日かっこ悪くも子供みたいに泣いた理由である直輝がいた。
何か監督と話しるその横顔はやっぱりかっこいいし凛としていて好きな直輝の姿だ。
「祥さん、天使さんのこと見すぎ。 そんなんじゃバレちゃいますよ」
「な……っ、違うから!」
「……そうですか?」
「そうです!」
からかい半分に注意をしてくれた結葵君と共に撮影の時間を待ち、一緒の出演者の人達と話しながら結葵君はリラックスしていた。
「始めるぞー」
やがて迎えた直輝から始まる最後のラブシーンの撮影。ざわめいていた現場は息を飲んでその姿を見ていた。直輝と女優が愛しそうに抱きしめあっている。それから瞳をのぞき込んで、数秒後────重なる唇と、息をのむ綺麗な二人の姿から目を逸らさずに見つめ続けた。
これが選んだ先だ。直輝もいずれ他の人と出会って、また恋をする。俺も同じように他の人の隣に居場所を見つける。直輝が他の誰かを愛した時に、おめでとうを言えるように・・・・・・
握り込んだ拳が微かに震えている。分かっていてもそう簡単には全てが終わらないから嫌になるけど、受け入れていくと決めた。そう言い聞かせて最後まで見つめた直輝は、真っ直ぐな姿勢で立っていて、この人の事を好きになって良かったと思えるほどにかっこいい姿だった。
「カーット!!!」
パァン、とかん高い音でラストシーンが終を迎えた。
無事に最後まで撮り終わりクランクアップをした現場は暖かな笑い声で溢れていて、役者の人達も、スタッフの人達も、マネージャーの方も、思い思いに喜びを感じながら抱き合ったり握手をしている。
「結葵君! お疲れ様ッ!」
「ーーっ!」
「え、なに?!」
「いや……まさかそんな風に言われると思ってなかったんで」
「……結葵君、ハグしよ!」
「え?」
「いい事あったら分合わなきゃ、ね!」
「は? いや、ちょっ」
真っ赤な顔をしている結葵君に構わず抱きつくと、たどたどしくもゆっくりと背中に腕が回ってくる。それから少ししてギュッと力のこもった腕に抱き返された俺は、クスクス笑いながら恥ずかしがる結葵君の頭を撫でた。
「今時分け合うって言ってハグとかしないですよ」
「そう?」
「そうです」
「ふふっ、本当にお疲れ様。 それとありがとう、どんな理由でも俺を選んでくれて最後までこうして仕事をさせてもらえて凄い感謝してる」
「……僕はお礼を言われることしてません」
「でも感謝してるよ」
「……はぁ。 本当に祥さんってどうしようもない馬鹿ですよね」
「それ昨日、怜さんにも言われた」
二人並んで話をして、この感覚がとても懐かしく感じる。嫌々ながらも照れた顔を隠して話してくれる結葵君と笑いながら楽屋まで戻ると、後は残りの仕事を片すためへと部屋を出た。
「あ、祥さん、打ち上げ全員参加らしいです」
「うん分かった。 じゃあまた後で結葵君」
打ち上げの時間に迄は間に合うように控え室へと戻って用具を片付ける。部屋の片付けを終えた後には、もう一度スタジオに戻ってから持ち歩きの為に別に用意した道具箱への片付けを始めた。
忙しい分、あまり考えなくて済むのは有難いし今は皆が喜ぶ中に居るから気が紛れる。やっぱりまだまだ立ち直るのは時間がかかりそうだ。そんな事を考えてしまうけど、数日前よりは遥かに心が軽いのは昨日吐き出したお陰なんだろう。
「あー急がなきゃ」
考え事をしてしまうと長く手を止めてしまう。いかんいかんと考えを振り払って立ち上がった時、グラリと視界が歪んだ。
「や、ば……っ」
壁に寄りかかってもぐわん、ぐわんと目が回って気持ちが悪い。気が抜けたせいなのか、浮かれすぎたからなのか。大丈夫だと思っていた体は思いの外重症だったらしくて、それに気づいた時にはもう遅い。
しっかりしなきゃ、そう思った意識が沈むのはそれから数秒後のことだった
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