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始まる未来、進む道
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「こちらの内容でよろしいかご確認ください」
規則正しい手順に沿って受付の人がチケットの発行手続きを行ってくれる。提示された内容を見る時間も惜しくて、はいと答えようとした時気になる言葉が耳へと入り込んできた。
「白髪凄い似合ってたねー!」
「映画の時は黒髪になるって雑誌に載ってたから見間違いかと思ったけど声かけてよかったよね……わたしもう手洗わない……!」
「バッカー、それは汚いってのー」
「あははっ、確かに」
楽しそうに顔を赤らめて話をしている女の子の会話を聞いて、もしかしてと心臓がドクドクと早鐘を打ち出す
白髪?映画?
直輝も、映画の時は黒髪だった。俺が最後に見た直輝は黒髪のままだった。でももしかしたらまた白に染めたのかもしれない。直輝かもしれない。
「お客様?」
「あ、あの……ちょっと俺、また後で来ます!」
「え?!」
驚く受け付けのお姉さんには悪いと思いつつも見失わないうちにさっき目の前を歩いていった女の子達を探した。
直輝なのか、確かめたい。
世の中白髪なんて、それなりに居るだろうし期待しすぎも馬鹿らしいってわかってる。でもそれだけ直輝に会いたかった。今度は俺から、俺から直輝の元へ行かなきゃならないんだ。
沢山払い除けた手を、傷つけたキズを、今度は俺が──
「どこ、ッだろ」
けれど人が多くて広い空港の中、一瞬だけ見た知らない女の子達を探すのは無謀だった。どうして直ぐに追いかけ無かったんだ・・・・・・。追いかけていたら、きっと・・・・・・。
悔しくて絶望感に胸が押し潰されそうになる。熱のせいで上手く呼吸が出来ないまま走り続けたせいでとんでもなく体のあちこちが痛くて堪らない。気を抜けば直ぐに倒れ込むぐらい震えているし気分も悪いけど、そんな事気にしてられない。
「ハアっ、ハァ、ッ、く」
ポタポタと落ちる汗を拭って顔を上げた時、一番奥の角を曲がった姿に目が奪われた。
────直輝……ッ!
人よりも背が高くて、白髪を靡かせて、間違う筈がない。直輝だ。
遠くて、あんまりにも遠くて、声が届かない。
何度も何度も呼んでも直輝はそのまま角を曲がってしまった。
その姿を追いかけて俺も走り出す。人が多くて、角の奥に消えた直輝がもっと遠くへ消えるのが怖くて、必死になって追いかける。
もう見失いたくない。もうすれ違っていたくない。人の目を気にする余裕もないまま何回も、何十回も、その名前を呼び続けた。直輝に聞こえるまで、届くまで、呼ぶ事を辞めることはもう、辞めたんだ。
「直輝ッ、……ハァっ、直輝ッ!」
曲がり角を曲がって、辺りを見回す。
どこへ向かった?どっちに進んだ?人が多くて、道が多くて、選択肢が沢山で、ぐるぐる目が回って気持ち悪い。立っている場所がぐにゃりと歪んだように思えて、怖気づき出す自分を罵った。
いつも中途半端に追いかけた俺を、最後に手を取りに来てくれたのは直輝だ。
いつも途中で追いかけることを辞めた俺を、怒っていても何があっても迎えに来てくれたのは直輝だ。
でも今は違う。
俺が、今度は、俺の足で直輝の元まで行くんだ。
嫌な音をたてて呼吸を繰り返す体をもう一度走らせる。真っ直ぐに駆け出した先、人に紛れた中にもう一度、その姿を見つけた。
────『直輝ッ!』
今出せる精一杯の声でその人の後ろ姿へ呼びかける。
こっちを向いて欲しい。振り返ってほしい。笑って欲しい。触れたい。抱きつきたい。
沢山、沢山、「 」と伝えたい。
守りたかったのは "二人の未来" なんだ。
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