アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
毎日の続き
-
直輝の真剣な眼差しと声に、周りの音が消えたかのように感じた。
直輝と俺だけしかいない様なそんな、不思議な感覚。
「それって」
「……うん、そう。 ただのお付き合いじゃない」
「……」
「将来、ずっと一緒に生きていく事を踏まえてもう一度告白してる」
「……待って、俺……。でも」
「今すぐじゃなくていい」
「……」
「俺しっかり将来も大切にする。 それはちゃんと祥に約束したいから、先ずは中途半端に辞めないで大学卒業してくる。 自分のことちゃんとけじめ付けて行けるように生きてく」
直輝の声がワントーン低くなる。
俺も緊張に背筋が伸びた。
ああ、きっとこの先の言葉は、俺達のけじめなんだろう。
ふ、と深く息をはいて心の準備をする。
ゆっくりと瞼を開けば瞳が合う直輝の言葉はやっぱり覚悟していた言葉だった。
「ニューヨークに戻ろうと思う」
「……」
「向こうでやり残した事全部終えてから日本に戻る」
「うん。 言うと思った」
「ふっ、流石祥じゃん」
「バカ直輝。 幼馴染み舐めんなよ」
「あははっ、そうだな」
「……直輝」
「うん。 一年後、戻って来るから。 祥のこと迎えに行く。 だからその時に、答え聞かせて欲しい」
ゆらりとほんの一瞬、直輝の瞳の奥が揺れ動いたのを見逃さなかった。
凛とした空気で強い意思を感じる直輝から微かに感じ取った不安の色。
こんなに強く居る目の前の人がその壁を壊せば弱さを抱え込んでいることに、それでも強い眼差しのこの人に、胸が痛いぐらいに締め付けられた。
俺だけじゃない。
いつだって俺の手を握って半歩先を歩む直輝も不安なんだ。
沢山不安で悩んで苦しんで、それでも今、俺の目に映る直輝は迷いのない凛とした顔をして立っていたから、だから俺は直輝の事をーー
「待ってる」
「ーーッ!」
「俺、待ってるよ」
「……それって」
「もう覚悟は出来てる」
「……」
「俺さ直輝居ないとダメなんだ」
「祥」
「俺……ッ、思ってた以上に、直輝が……、なおのことが、……好きっ」
「ーー」
ぎゅって背中に直輝の腕が回る。
痛いぐらいに抱き寄せたくせに、唇にはほんの触れる様な切ないキス。
震える唇は、確かめる様に、慰める様に、もう一度重なりあった。
「……直輝」
「泣くな、祥」
堪えてたのに涙って本当厄介だ。
ここで泣いたらきっと直輝は行きづらくなる。
だからニューヨークに戻るって聞いた時には笑って行って来いって背中押すつもりだったのに、直輝に抱きしめられちゃもう我慢なんか出来なくて。
直輝の匂いに包まれちゃ離れ難くて。
一年後、また一緒になれるから、三年間に比べたらずっとずっとましなんだから、そうやって幾ら自分を納得させてもやっぱり好きなものは好きで、怖いものは怖い。
気持ちを確かめあったのに直ぐに離れなきゃならないのがまるで夢から覚めた後のあの悲しいばかりの虚無感のようで。
離れたくないと伝える様に直輝の背中に回した手のひらは、頭で分かっていても手放す事が出来なかった。
「戻って来るから」
「うんッ、……っ俺、今度はちゃん、お帰りするっ」
「……ああ」
「だから、頑張ってきて。 俺も一年後にちゃんと直輝と生きて行くためにこっちで準備するから」
「うん」
「もう直輝に辛い思いさせないから……っ」
「それは俺もだよ。 俺達の未来の不安なこと祥一人に悩ませたりしない。 俺も一緒に祥と悩むよ、だから相談して」
「うん……っ、好き……直輝好き」
「っ、は……ッ、俺も、好きだよ」
おでこをくっつけあって二人揃って目を閉じる。
そしたら不思議な事に悲しさが少しずつ溶けて行く。大丈夫って直輝が教えてくれているみたいに髪をなでるその手の温度を忘れない様、俺は心に刻みこんだ。
「祥、三年間は無駄じゃなかったよ。 今こうして、俺達ちゃんとお互い気持ちを確かめあった上で未来の準備が出来てる」
「……そ、うかな。 でも俺が勝手に決めてそれで直輝は沢山傷ついたし、俺もーー」
「違うだろ」
「……」
「傷ついたのは祥だって同じだし。 傷ついたから分かったこと沢山あった。 だから後悔するな。 もう、後悔するんじゃなくてこれからは未来の事で悩んだり期待したりそうやって進んでいこ?」
「……後悔、しない?」
「後悔した事だって後悔しないよ」
「……ッ」
「もしもこの先何かが起きて、その時に祥と過ごした時間を後悔して、祥のせいにするなんて事をするほど俺って小さな人間つもりなかったんだけどな〜。 祥はそういう風に俺のこと見てたんだ〜?」
「ち、がう……っ!」
「ふふっ、じゃあもう言うな。 俺は後悔してないんだから。 覚悟したらもう迷わないよ」
「……本当に?」
「ああ。 俺の人生で祥を好きになったことが何よりも自慢だから」
「……っ、ほん、とうに。 馬鹿だよ直輝はッ」
「馬鹿だよ。 祥の事大好きだからね俺」
「ふ……っ、う……。 ま、ってるよ……絶対帰ってきてね……」
「当たり前だろ」
「……ん」
「あははっ! はい、指切りげんまん」
くしゃっと顔を崩して直輝が笑う。
差し出した小指に、直輝の小指が絡んで約束を交わす。
大丈夫、大丈夫。
俺は直輝だから、こんな馬鹿な直輝だから信じれる。
未来でどうなるか分からなくても、信じてるのはただ単純にこの人が好きだから。
「行ってくるよ」
「うん」
何気ない一日。何の変哲もない毎日。
珍しい雪が降り積もった、見慣れた道の上で約束を交わした。
後ろには俺達の歩いてきた新しい足跡を残して。
沢山泣いた顔で下手くそな笑顔を作った俺に直輝はキスをすると、優しく何度も頭を撫でてニューヨークへと旅たって行った。
一年後、もう一度やり直すために。
今度は二人の気持ちは一緒のところにしまって、別々の場所で生きていく時間が始まる。
そんな何の変哲もないようで俺達にとっては新しい一日のスタートだった。
◆第二章〜END〜◆
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
330 / 507