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テキーラ・サンライズ
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クリスマスイブもクリスマスも、結局俺はバイトに狩り出ていた。
皆デートの前に美容室でヘアメイクを要望する顧客の女性が多くて、人手が足りないって悩んでる所空いてることを伝えて入れて貰ったんだけど、シフトに入ることが決まった後になって耀さんからの誘いの連絡が来ていた。
タイミング悪いなぁて思っても、仕方ないものは仕方ないし。
本音言えば、じゃあ今からあの女性とディナーをしてくるわ!なんてヘラっとした笑顔で言いそうな耀さんを快く見送れるかも分からなかったのだから丁度いいのかもしれない。
押し倒してそのままセックスに持ち込んで無いなんて自信は無いから。
そこまで考えてハッとした。
今迄、明日には好きじゃなくなるかもしれない。自分の好きがイマイチ自身が持てないって。
それを分かってもらって今日迄答えを先延ばしに来たけど、ここまで執着してるなら俺も……答えは出てるのかな。
「瑞生さん! こっちアシスタント入って貰っていいですか?」
「はーい」
黙々と考えていた時、バイト先の先輩に声をかけられてハッとする。
いや、そんな簡単に今迄の価値観が変わるわけない。
忙しかったから少し頭が疲れてるんだろう。
良くある男の縄張り意識のようなそんな独占欲であって、好き故に不安になるなんてそんなの俺らしくもないし、まず有り得ない。
このモヤモヤはきっと、前者であって、後者ではない。
「こっち、下げておきます。 カラー剤も用意しとくんで」
「わああ! ありがとう!」
「いいえ」
それでも、自分に言い聞かせるような言葉を並べても、淡々と作業をこなしながら頭に浮かぶのは耀さんとその女性が重なり合うところ。
……俺に言うみたいに、耀さんも女性に囁くんだろうか?
そもそも耀さんとはあの数ヶ月前以来ああいった話はしてないけど、自己完結になっていたら少し笑える。
例えそうなっていても俺が責める事なんて出来るわけがないしね。
だから今日の事も俺とはただ先に約束していたから、本命になるかもしれない女性を優先したって考えても何もおかしくない。
誰が何処で飽きるかなんて、冷めるかなんて、分からない事なんだし。
寧ろ持った方だと思う。
体だけ重ねて数ヶ月。
耀さんは我侭でマイペースな俺に何一つ文句を言わず居場所をくれるんだから。
「なーんか。 頭痛くなる」
「え? 何か言った?」
「いいえ、クリスマスあっという間に終わったなーて」
「ああ! でもこの後オーナーがお店の近くのカラオケでクリパしようって!」
「ふっ。 オーナーてほんと若いですよね」
「ねぇ〜、ほんとよね」
「俺も行こっかな」
「えっ! マジ?!」
「? はい」
「いや今迄瑞生さん誘っても来た回数たったの2回だからさ! 驚くよ」
「そんな少ないですか? 今日予定もないし、行きたいです」
「カモンカモン! こりゃ女の子達が大喜びだわぁ〜」
ケタケタ笑ってバシバシ背中を叩いてくるのは、俺の担当をしてくれてる真柴さん。
真柴さん見た目はおっとりした綺麗な女性なのに口開けばそこら辺の男よりも男前だって、同期の人は皆肩を落としていた。
俺は真柴さんみたいな豪快に笑う女の子の方が好きだな。
なんか……いや。いやいや。
思わずしっくり来たある人の笑顔を思い浮かべて慌てて頭をふる。
自然と零れそうになった「耀さんに似てて」なんて恥ずかしくなるような言葉。
思い浮かべた自分を静かに呪った。
それから忙しい時間も過ぎて店の締め作業を終えた俺達は行きつけの近くのカラオケ店に向かった。
「よお〜し、毎年恒例クリスマスが恋人だよ〜! パカラパカラ! クリスマス独り身パーリー!」
「を、始めます」
カラオケルームがしんと静まり返るような寒い開催の音頭を取ったのはオーナー。 そしてうまく締めてくれたのは店長。
「皆ノリ悪いなぁ。 ほらほら、のめのめ!」
依然としてオーナーのテンションに着いて行く気がない皆は、オーナーを抜いた店長主催のような打ち上げを始めた。
「瑞生も来るなんて珍しいな!」
「予定無くて」
「カーッ! 嘘をおっしゃい! 俺は知ってるよ、お前がモテモテのムカつく後輩ってことは〜!」
肩を組まれて始まったのはウンザリする様なこの絡みで、面倒くさいと思ってしまう。
きっとこの後言うセリフは「女の子紹介して」なんだろうな。
「で! 俺に女の子紹介してちょ〜っだい!」
「……」
やっぱりなぁと思いながら、面倒くささから逃れる為に最近声をかけてきた女の子の中で二人の気が合いそうな子を思い返す。
「この前の彼女さんはどうしたんですか」
「それが……いや聞かないで、心が痛いから」
「振られたんだって! しかも四又! 四又ってなかなかだよな〜おもしれぇっての」
「だーっ! お前言うんじゃねぇよ!」
ああまたか。
先輩は何でかいつも浮気をされた挙句捨てられている。
予想がこう何度も当たる人もある意味凄い。
それだけ素直というか、単純馬鹿だとでも言うべきなのか。
「だから瑞生〜! お願いしますっ!」
「じゃあ俺の実践見てくれたら考えます」
「まじ?! 喜んで! てかお前もそろそろ試験だもんな。 頑張れよ!」
「はい」
お酒を飲みながら肩を組まれて、この先控えている今年の試験の予想を話す。
実技が大事だから、腕前は尊敬している先輩と取引きをすると代わりに一月の始めに合コンをセッティングする事を約束した。
「つーか瑞生はどうよ」
「俺ですか? んー、どうもないですね」
「それ本気かー? いつ聞いてもあしらわれるからなぁお前」
「ふっ、いやほんとに話す事が無いってだけで」
「あーあー、イケメンは余裕だねぇ……俺なんてさ……っ、う……ぐす」
彼女さんの事を思い返してしまったんだろう。ビール片手にボロボロと大粒の涙を流す先輩はかっこいい姿とはかけ離れて、どちらかと言えば情けない。
同期の先輩達にからかわれていても愛されている先輩はお店のメンバーに慰められていた。
そんな姿を見てふと思うのは、もしも今俺も耀さんにあの女の人と俺を並行で関係を持たれていたら泣くのかなって疑問。
先輩みたいに悲しくてどうしようもないって、そんな切ない気持ちになれるんだろうかって、素朴な疑問は結局考えても答えが出ないまま。
そうやって楽しいクリスマスが終わりを迎えても俺のモヤモヤは依然と消える事は無かった。
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